「カーボンニュートラルLNG」という言葉をご存知でしょうか。これは、カーボンニュートラル(二酸化炭素の排出量と吸収量を合計してゼロにすること)を実現させるために重要な天然ガスのことです。しかし、「どうやって天然ガスの二酸化炭素の排出量を減らしたり、吸収したりしているのだろう?」疑問に思う方もいるかと思います。
この記事では、カーボンニュートラルLNGの一般的な説明や、どのようにしてカーボンニュートラルを実現させているのかという仕組みなどについて詳しく解説していきます。さらに、カーボンニュートラルLNGを導入するメリットや課題、導入事例も紹介していきます。
カーボンニュートラルLNGとは?
カーボンニュートラルLNGについて
カーボンニュートラルLNGとは、地球温暖化を防ぐ有効な手段として注目されている新しいタイプのエネルギーです。カーボンニュートラルLNG(Carbon Neutral LNG)の頭文字を取って、「CNL」と呼ばれることもあります。カーボンニュートラルLNGは、「カーボンオフセット」という方法を用いて、LNGが排出する二酸化炭素の排出量を実質ゼロにすることができます。カーボンオフセットは、二酸化炭素の排出量を吸収また削減した二酸化炭素量で相殺する仕組みのことです。
そもそも、LNGとは何なのでしょうか。LNGとは、液化天然ガスのことです。LNGは、主に石炭など他の燃料と比べて燃焼時の二酸化炭素の排出量が半分ほどと少ないエネルギー源です。しかし、LNGを採掘したり、輸送したりする過程でどうしても二酸化炭素が排出されてしまいます。
そこで登場するのが、カーボンニュートラルLNGです。カーボンニュートラルLNGは、LNGの生産や輸送の過程で出る二酸化炭素を「カーボンクレジット」という手法で相殺できます。カーボンクレジットは、森林保護や再生可能エネルギーの導入など、環境を守るための取り組みによって入手が可能です。これを使用すると、排出した二酸化炭素量を削減した二酸化炭素量で相殺し、実質ゼロにすることができます。
このようにして、カーボンニュートラルLNGは、二酸化炭素の排出量をゼロにしているのです。そのため、使用している燃料を変えることなく、排出量を削減が可能になっています。この利便性は高く評価されており、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた有望なエネルギー源だと考えられています。
カーボンクレジットについては、こちらの経済産業省のレポートよりご覧ください。
さらに、こちらの記事でも分かりやすく解説しています。あわせてご確認ください。
関連記事はこちら:カーボンクレジットビジネスとは?市場性や今後の課題も解説
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カーボンオフセットについて
カーボンオフセットは、私たちの日々の活動やビジネスで生じる二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を、環境を守るための取り組みを通じて相殺する考え方のことです。もちろん、大前提として、二酸化炭素の排出量を削減するためにできることはきちんと行なう必要があります。しかし、すべての排出をゼロにするのは難しいので、カーボンオフセットという考え方が生まれたのです。
カーボンオフセットとして利用できる取り組みの例には、次のようなものがあります。
- 森林を育てることで大気中の二酸化炭素を吸収する活動
- 風力、水力、太陽光発電などの再生可能エネルギーを利用する活動
- 効率のいい省エネルギー機器を導入する活動
また、これらの取り組みを通じて削減、吸収できた二酸化炭素量を数値化し、「クレジット」として売買することも可能です。二酸化炭素を削減したり、吸収する活動を行う企業が取得したクレジットを売却することで利益にもなります。一方で、このクレジットを購入した企業は、自社の二酸化炭素の排出量をオフセット(相殺)することが可能です。
このクレジット取引により、さらに多くの資金が森林の育成や再生可能エネルギーの普及、省エネルギー機器の導入などの環境の保全活動に利用されるようになります。これにより、地球温暖化への対策がさらに前進するという好循環につながると期待されています。
カーボンニュートラルLNGのメリット
カーボンニュートラルLNGを利用するメリットは、次の3つです。
- 温室効果ガスの削減
- 高いエネルギー効率
- ESG投資の実現
温室効果ガスの削減
カーボンニュートラルLNGは、LNG(液化天然ガス)の使用までの過程で排出される温室効果ガスの量を、環境を守るための活動を通じて入手できるクレジットを使用してオフセット(相殺)することで、排出する温室効果ガスを実質ゼロにする考え方です。
ただし、クレジットの取得には、第三者(VerraやGold Standardなどの機関)による検証と認証が必要です。実施した活動が温室効果ガスの排出を削減していることが確認されてから、クレジットが発行されます。通常のLNGからカーボンニュートラルLに切り替えることで、温室効果ガスの削減に貢献できるため、簡単に社会的な責任を果たすことができます。
さらに、天然ガスは、他の化石燃料と比べて、硫黄酸化物や窒素酸化物などの有害物質の排出も少ないです。これは、LNGが高い比率で炭素と水素を含んでいるためで、それにより燃焼時の二酸化炭素の排出が減ります。その結果、他の化石燃料と比べて、同じエネルギーを得るためにLNGから排出される二酸化炭素などの温室効果ガスの量が少なくなります。
高いエネルギーの効率
LNG(液化天然ガス)は、高いエネルギー効率を持っています。天然ガスは燃焼時、石炭や重油など他の燃料と比べて酸素と混じりやすいです。そのため、エネルギーを効率良く放出できます。同じ量の燃料を使う場合でも、天然ガスを使えばより多くのエネルギーを手に入れることができます。
さらに、LNGはエネルギー密度も高いです。少量でも多くのエネルギーを保持できるので、輸送や保存も効率的に行えるのも大きなメリットと言えるでしょう。
ESG経営の実現
カーボンニュートラルLNGの導入は、ESG経営の実現に向けた取り組みとして大きな役割を果たします。ESG経営とは、環境(Environment)、社会(Social)、企業経営(Governance)を意識した経営のことです。現在、このESGを考慮した投資が増えており、多くの企業が温暖化対策や社会的責任を果たす取り組みなどを経営戦略に組み込むようになっています。そのため、カーボンニュートラルLNGは、ESG経営を実現させる手段として注目を集めているのです。
さらに、カーボンニュートラルLNGを使用していることを統合報告書やCSRレポートなどに記載することで、企業が環境や社会に配慮した経営を行っていることを社外にアピールできます。アピールすることで、他企業やESG投資家からも高い評価を得られる可能性があり、これは投資額の増加につながるなどのメリットも考えられます。
こちらの記事では、「ESG投資」について分かりやすく解説しています。「ESG投資が何かよく分からない」という方は、ぜぎ一度ご覧ください。
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カーボンニュートラルLNGの課題
カーボンニュートラルLNGはメリットがある一方、課題も残されています。特に問題となっているのは、下記の3つです。
- カーボンクレジットの信頼性
- 二酸化炭素の排出量や削減量の計測
- 価格
カーボンクレジットの信頼性
カーボンニュートラルLNGの最も大きな課題は、カーボンクレジットの信頼性です。この信頼性とは、クレジットを発行するために行われている取り組みが、確実に二酸化炭素の排出量を削減しているかを正常に判断できているかどうか、ということです。
例えば、次のような事例がありました。
・事例1
とある天然ガスプロジェクトでは、二酸化炭素の排出を削減する範囲を実際とは異なる表記していたために、カーボンオフセットが正しく行われていなかった可能性のある事例。
・事例2
実際に削減した二酸化炭素の排出量よりも多く削減したと虚偽の申請を行い、クレジットを不正に発行した疑いのある事例
こういった事例から、クレジットの信頼性は、その削減量の測定方法や基準設定にも大きく関係していることが明らかになりました。例えば、クレジット発行後にその森林が伐採された場合、削減される二酸化炭素の総量が変わります。しかし、発行されたクレジットには、その変化を反映することができません。これを悪用したのが、事例2になります。
カーボンクレジットの削減効果を確認するルールが不十分であるため、こうした問題が起こるのです。そこで、オーストラリアではカーボンクレジットの詳細報告を義務付け、第三者が検証できるようにしています。日本でも同様の規定を設けるなどして、カーボンクレジットの信頼性を高く保てるように工夫する必要があるでしょう。
二酸化炭素の排出量や削減量の計測
カーボンニュートラルLNGの採掘から燃焼に至るまでのすべての過程を通じて排出される二酸化炭素の量やを正確に計算することも、大きな課題となっています。それぞれの段階で排出される二酸化炭素の排出量を詳細に把握し、それを合計する必要があるからです。これが排出量を測定する上での課題となっています。現在、解決に向けて政府や企業が、より精度の高い測定方法や測定サービスの開発を進めている最中です。
一方、二酸化炭素の削減量の正確な測定も難しいです。森林保全や植林による二酸化炭素の吸収量を正確に計算するには、その森林がどれほどの炭素を保持しているかを定期的にモニタリングする必要があります。さらに、自然災害や伐採による影響を考慮に入れるために、第三者機関による検証も重要です。このようなモニタリング技術や検証方法の開発も進められているものの、その完成にはまだ時間がかかると思われます。
価格
カーボンニュートラルLNGがなかなか普及しない理由の1つには、その価格にあります。カーボンニュートラルLNGは、一般的なLNGと比較して価格が高くなります。なぜなら、温室効果ガスの排出を相殺するために必要なカーボンクレジットの購入費用が加算されるからです。
さらに、近年、企業間での二酸化炭素の排出量削減の取り組みが増えていることで、カーボンクレジットの需要が高まっています。需要の高まりによって、クレジットの確保が難しくなり、価格がさらに高騰する可能性も十分に考えられます。日本でカーボンニュートラルLNGの導入を進めるためには、カーボンクレジットの購入費用を低減するなど、価格を抑える取り組みが必要です。
カーボンニュートラルLNGの導入事例
東京ガス
東京ガスは、2019年に国内で初めてカーボンニュートラルLNGを導入しました。その後、東京ガスは、さらなるカーボンニュートラルへの取り組みとして、2021年3月に「カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンス」を設立しました。このアライアンスは、カーボンニュートラルLNGのさらなる普及と、その利用価値を高めることを目標に掲げています。設立時には15の企業が参加していましたが、その数は62社にまで増加しています(2023年6月現在)。
カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンス設立時に加盟した15社
- アサヒグループホールディングス株式会社
- 東京ガス株式会社
- いすゞ自動車株式会社
- オリンパス株式会社
- 堺化学工業株式会社
- 株式会社ダスキン
- 学校法人玉川学園
- 株式会社東芝
- 東邦チタニウム株式会社
- 株式会社ニュー・オータニ
- 丸の内熱供給株式会社
- 三井住友信託銀行株式会社
- 三菱地所株式会社
- 株式会社ヤクルト本社
- 株式会社ルミネ
カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンスに加盟中の62社
- アサヒグループホールディングス株式会社
- いすゞ自動車株式会社
- オリンパス株式会社
- 堺化学工業株式会社
- 株式会社ダスキン
- 学校法人 玉川学園
- 株式会社東芝
- 東邦チタニウム株式会社
- 株式会社ニュー・オータニ
- 丸の内熱供給株式会社
- 三井住友信託銀行株式会社
- 三菱地所株式会社
- 株式会社ヤクルト本社
- 株式会社ルミネ
- 株式会社T&K TOKA
- 小野薬品工業株式会社
- 三芳合金工業株式会社
- アイダエンジニアリング株式会社
- 田島ルーフィング株式会社
- 株式会社細川洋行
- 社会福祉法人ぱる
- 順天堂大学
- 順天堂医院
- 株式会社帝国ホテル
- 大鵬薬品工業株式会社
- 日本ジェネリック株式会社
- 小島化学薬品株式会社
- キッコーマン株式会社
- 学校法人学習院
- 株式会社富士通ゼネラル
- 理研ビタミン株式会社
- 株式会社ダイセキMCR
- サントリーモルティング株式会社
- 三菱化工機株式会社
- セントラルスポーツ株式会社
- 東京ガスケミカル株式会社
- 秦野市
- 荒川化学工業株式会社
- 第一熱処理工業株式会社
- 学校法人東海大学
- 学校法人早稲田大学
- 株式会社ホンダテクノフォート
- 株式会社常磐植物化学研究所
- 飯野海運株式会社
- 日本ゼオン株式会社
- 東光電気工事株式会社
- 株式会社 佐藤渡辺
- 日鉄建材株式会社
- 桜美林学園
- HARIO 株式会社
- 戸田アスコン株式会社
- 東京アライドコーヒーロースターズ株式会社
- 東京製線株式会社
- 川本工業株式会社
- マクセル株式会社
- 明治大学
- 株式会社西武リアルティソリューションズ
- 株式会社カナエ
- 法政大学
- 守谷市
- 昭島市
- 土浦市
カーボンニュートラルLNGバイヤーズアライアンスに加盟中の卸先ガス事業者13社
- 京葉ガス株式会社
- 厚木ガス株式会社
- 野田ガス株式会社
- 大東ガス株式会社
- 武陽ガス株式会社
- 栃木ガス株式会社
- 武州ガス株式会社
- 東部ガス株式会社
- 西部ガス株式会社
- 昭島ガス株式会社
- 秦野ガス株式会社
- 習志野市企業局
- 松栄ガス株式会社
各企業の詳しい導入例については、東京ガスのホームページよりご覧ください。
まとめ
カーボンニュートラルLNGとは、「カーボンクレジット」という制度を利用して、二酸化炭素の排出量を実質ゼロにしたLNG(液化天然ガス)のことです。このクレジットを購入することで、カーボンニュートラルLNGの採掘から燃焼までに排出した二酸化炭素の量をオフセット(相殺)できます。
カーボンニュートラルLNGの最大のメリットは、地球温暖化の原因である温室効果ガスの削減ができることです。他にも、ESG経営(環境、社会に配慮した経営)の実現にも役立ちます。しかし、カーボンニュートラルLNGには課題もあります。例えば、二酸化炭素の排出量や削減量の計測が困難なため、発行されているカーボンクレジットが本当にその量を削減できているかどうかが判断しづらいところです。実際、過去には虚偽の申請を行い、不正にクレジットを発行することで資金を得ていた企業も存在します。
さまざまな問題はあるものの、解決に向けて日本だけではなく。世界各国でさまざまな技術開発などが進められています。ぜひあなたの企業でも、カーボンニュートラルに向けて行動してみてはいかがでしょうか。最も簡単にできるのは、自社の排出している二酸化炭素量を計算することです。そうすることで、どの分野でどの程度の削減が可能であるかを判断できます。こちらのサイトから、無料で二酸化炭素の排出量を計算することができますので、ぜひ一度お試しください。
著者のプロフィール
- 小学校教員として、カーボンニュートラルや脱炭素に関する授業を行った経験がある。子どもたちが理解できるように、専門用語を分かりやすく、かみ砕いて説明することを心がけた。この経験を活かし、脱炭素化の重要性を広く伝えるために、誰にとっても理解しやすい記事を作成している。