幸いにも降雨量に恵まれた日本は、豊富な水資源を有しています。昔から水の流れや勢いを利用した水力発電で電気の供給が行われてきました。近年になって、脱炭素対策として太陽光や風力、バイオマスなどの再生可能エネルギーが話題になることが多いですが、水力も1つの選択肢となり得るのです。
ただ、水力発電と聞いても巨大なダムがイメージされるため、対象外だと決め込んでしまう方もいるようです。水力発電でも小規模で行える方法があり、状況によっては高効率の運用が期待できます。今回は、水力発電を大きく大型と中小型とに分けて仕組みや事例を解説していきます。どうぞ、この機会にご一読されてみて下さい。
水力発電とは
大小さまざまな河川・貯水池・ダムを利用して発電する方法を水力発電といいます。水力発電の歴史は非常に長く、一般的には巨大な水力発電が有名です。従来のイメージが現実味に欠けるため、ここまで再生可能エネルギー(以下:再エネ)が取り上げられながらも、検討する設備の対象としては見られない傾向にあります。
また、もう1つ水力発電でハードルとなっているのが、河川法による水利用認可にかかる煩雑さにあります。イメージしづらいことに加えて、取得に手間がかかる点で、太陽光ほどは民間での普及は進んでいない状況です。しかしながら、ここ数年の脱炭素の動きから、自治体や企業、農家などで徐々に注目されているのが中小型の水力発電です。その活用方法は実に多岐にわたり、中には、集合住宅や商業施設の排水を利用するケースもあります。
豊富な水源で発電できる水力発電は、設備利用率も60%と高いのが特徴で高効率の再エネ運用につながります。それぞれの状況に応じては、水力が最適な方法かもしれません。この機会に、水力発電とはどのような仕組みでエネルギーを創出するのかを見ていきましょう。
水力発電の仕組み
水力発電では、「水が上から下に流れる性質」を活用して電気エネルギーを創出します。津波や洪水でも知られているように、急激な水の動きは時に強力です。水の流れ・勢いがタービン(羽根車・水車)を動かすことで電気が生じる仕組みとなっています。
水力でタービン(羽根)がまわる仕組み
例えば、河川に設置した水車から動力を得たり、自転車を漕ぐと電灯がつく仕組みと同じです。
流れ込み式
流れ込み式とは、河川の上位から下位に水が流れる仕組みを利用する方式をいいます。河川の自然な流れからそのまま電気を創出するため、コストが抑えられることが特徴です。一方では、雨量が少ないと河川の流れも緩やかになり、天候に左右されるデメリットがあります。
調整池式・貯水池式
調整池式とは、河川の一部または人為的に貯水池を建設し水を貯めておく方式のことです。調整設備にて上位から下位に水を放出して電気を創出します。ダムによる発電もこの方式に分類されます。需要に合わせて放出する水量が調整できることや、降雨量が多い時に水を貯めておけるメリットがあります。
揚水式
揚水式は、上位部と下位部に貯水池を建設し、上下に水を流すことで電力の調整を行います。2つの貯水池の水位差による水圧と流速でタービンを回転させます。消費電力が少ない深夜に水を汲み上げておき、需要が高い時間帯に水を流して発電する方式です。
大規模水力発電
大規模水力発電は、従来からの巨大な水力発電のことを指しています。「新エネルギー法」の区分では、電気の出力が10万kW以上のものを「大水力発電」と定義しています。国内には、兵庫県奥多々良木発電所や新潟県奥清津発電所など100万kWを超える規模の発電所がすでにいくつも稼働しています。
大規模水力発電の場合は、設置可能な場所が限られているため、国内では大規模クラスでは既存の発電設備をアップグレードしていく方針です。参考までに、世界最大規模になると、中国の三峡ダム/1TW、ブラジルアマゾン/15GWなどがあります。
小水力発電の開発が進んでいる
一般的にイメージされているように、これまでは水力発電といえば、相応の大型設備や貯水量(降雨量)が必要でした。しかし、実際には電気事業者でない限り、そこまで大量の電力が必要なわけではありません。1,000kW以下の出力でも、ある程度の需要に応えられるとの見方から、1000kW以下の中型・小型水力発電の可能性が注目され始めているのです。中には個人規模で100kW以下のマイクロ水力発電も出てきているのです。
小規模の水力発電は、「中小水力発電」「小水力発電/小型水力発電」などと呼ばれ、従来とは異なるバラエティーに富んだ活用方法が試みられています。発電設備の技術開発も著しく進化し、限られた水量からでも高い発電効果が期待できるのです。カーボンニュートラルを実現する、総括的なエネルギーミックスの1つとして、自治体や企業での導入が徐々に進められているのです。
関連記事はこちらから:カーボンニュートラル実現に向けた電力会社の取り組みとは?事例を解説
小水力発電への取り組み事例
小水力発電は、河川や貯水池だけでなく農業・工業用水路、水道用水、商業施設や集合住宅の下水処理水など幅広い活用方法が存在します。水さえ得られれば何処でも、誰でも再エネ発電所を運営するチャンスがあります。小型設備を使う小水力発電はアイデア次第です。そこで、具体的な導入方法として、海外・国内における素晴らしいアイデアの小水力発電をいくつかご紹介していきます。
インドネシア 森林と野生トラの保護に水力
2015年、インドネシアのスマトラ島にある小さな村で、森林と野生動物を保護するために、「スマトラ島森林保護プロジェクト」が立ち上げられました。プロジェクトの一環として、地域住民の協力を得て7機の中小水力発電が設置されました。同プロジェクトの拠点であるスカ・バンジャール村は、ユネスコ世界遺産危機リストに掲載されているブキ・バリサン・セラタン国立公園に隣接する村です。
この地域では、不法の農園開拓や森林伐採が深刻化しており、同地を生息地とするトラやサイは絶滅の危機に瀕しているといいます。WWF(World Wide Fund for Nature)の支援・指導のもと、保全活動が進めらました。日本の建設コンサルタントID&E(日本公営株式会社)が建設に着手、Sonyや富士通も保全活動に提携している国際的なプロジェクトです。「クリーンで安価な自然エネルギーによって、森林や野生動物を守る」ことを目的としています。
村で導入された水力発電は、それぞれ5kW~10kWの容量を持ち、自然の流れを利用する流れ込み式がメインとなります。一部では川の流れを堰き止めて、水管バイパスからタービンに水を流す方式です。全7機の発電所から、供給できる電気は完成当時で約116世帯、想定以上のエネルギー量が期待できるとのことです。
参照:Increasing Indonesia’s renewable – ANDRITS
UK・米国 5kW以下で簡単設置のPico-Hydro
海洋発電や洋上風力発電で世界をリードするUKや米国では、出力5kW以下のミニサイズの水力発電ユニットが注目されています。設備というよりは、配管や水際に備え付ける機器といった手軽さで、ホースや配管があれば簡単に設置できます。「Pico-Hydro」と呼ばれている発電機器で、日本でも「ピコ水力」という名称で似たような機器が製造されています。ただ、日本の「ピコ水力」はまだサイズが大きく不便な機器が多いです。
「Pico-Hydro」は、ネパールやフィリピン、エクアドル、カナダ、米国などで試行的に販売が開始され、安価に購入できることからも好評を呼びました。現在では、似たようなお手軽水力発電が多数発売されおり、Amazonでも3000ドル~4000ドル程度で購入できます。
参照:Stimulating the Market for Pico-Hydro – GOV.UK
嵐山 渡月橋の照明にマイクロ水力
京都の嵐山では2005年、桂川にある渡月橋の改修に伴ってマイクロ水力発電が導入されました。導入に至った理由は、渡月橋に照明をつけてほしいと住民からの要請があったからです。景観を損ねる理由から、渡月橋の照明は未設置のまま見送られている状況でした。
照明の設置に関して、京都府に申請を行ったのが京都観光連盟の嵐山保勝会です。同連盟が照明の費用を水力発電で賄う、ということで認可されました。「太陽光も検討したが天候に左右されるし、夜の発電が必要だった」との判断から水力の導入に至ったと聞かれています。水力発電出力5kW程度の小型水力でも、毎日24時間発電できるため、十分に照明コストを補っています。
工場の排水利用で出力500W
次にご紹介するのは、滋賀県の工場排水を利用した例です。1kWにも満たない500W出力のマイクロ水力発電です。こちらで使われている設備は通常のタービンとは異なり、昔ながらの木製水車方式となっています。直径わずか1.5メートル、幅30㎝と手軽なサイズで工事のコストも最小限に抑えていけます。
頻繁に流水が得られれば、水の落差60㎝にて電気を作ります。もともとの排水溝設備の上に載せるタイプ、開放型上掛け単連水車と呼ばれる設備で、工事費用も最小限に抑えられます。水力で得た電気は蓄電池に貯めて、工場内の充電や防犯灯の電力に使用しています。
リコー 3D簡易型ピコ水力レンタル
オフィス機器や小型電機を製造するリコー株式会社は、2022年3月に「LIFE PARTS(ライフパーツ)」と呼ばれる簡易型ピコ水力発電機器のレンタルサービスを開始しました。リコーの「LIFE PARTS」は、少ない水量でも発電可能で、農業用水や工業排水などで簡単に活用することができる、新しいタイプの発電機器です。レンタルでもサービスを提供します。
卓上サイズで軽量、3Dプリンターの製造で国内・海外での幅広い展開が狙いです。リコーが合わせ持つ、ITソリューション技術と掛け合わせることで、中小企業のDX支援にもつながるとされています。電力供給と同時に業務の効率化が解決できるピコ水力プロジェクトを提案中です。さらに、農業・工業の活用で地域エネルギーの創生にもつながるため、販売開始以来、自治体からの問い合わせが殺到しているとのことです。
参照:3Dプリンターを活用したピコ水力発電のレンタルサービス – リコー
参照:「3Dピコ水力発電システム」リコー社内起業家インタビュー – PR TIMES
まとめ
水力発電はその性質上、公道や公共施設、農地・工業、国有地に水道局と、行政がかかわるケースも多く、一見面倒ではあります。しかし、それを逆手にとって自治体と提携してプロジェクトを立てることも可能です。また、数社、複数の自治体と提携するケースも見られています。
水力発電の設備効率はその他の再エネが13~20%程度にとどまる中、60%以上の高効率が期待できるうえ、長期運用にも適しています。日照が得られず風力も十分ではない、と再エネに行き詰まり感じている企業・自治体であれば、この機会に水力発電への活路を見出すのも1つの方法です。関心がある方は、中小水力の事例を、この機会にて徹底して調べてみてはいかがでしょうか。
なお、自社におけるCO2排出量の具体的な数値をまだ調べていない方は、無料のタンソチェックツールにて、簡単に調べることができます。アカウント作成に費用はかかりませんので、こちらも合わせてご活用下さい。
著者のプロフィール
- 太陽光発電・蓄電池等を専門とする住宅設備会社での勤務歴10年。再エネの専門知識からエネルギー系の株式投資と記事執筆を開始する。エネルギー専門の投資家兼ライターとして独立して7年。過去にNY、ロンドンの移住歴あり、国内・海外メディアを駆使した情報収集が強み。
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