近年、気候変動に対する企業のリスク評価と対応策がますます重要視されています。特に、TCFDが推奨するシナリオ分析は、企業が気候変動に関連するリスクと機会を理解し、適切な情報開示を行う上での貴重な手法となっています。本記事では、TCFDにおけるシナリオ分析の重要性と具体的な手順、注意点について解説し、ビジネスマンの皆様に向けたSEO記事としてお届けいたします。
TCFDとは
TCFDとは、企業の気候変動に対する取組みや財務情報を開示するための枠組みです。Task Force on Climate-related Financial Disclosuresの略称で、日本語では気候関連財務情報開示タスクフォースと呼ばれます。ここでは、TCFDが設立された背景、情報開示の枠組みとガイドラインの概要、TCFDの重要性と利点についてそれぞれ解説します。
設立の背景
TCFDは、2015年にフィンランドの金融市場安定化庁の提案を受け、フィンランド銀行の総裁（当時）であるMark Carney氏が議長を務める形で設立されました。TCFDは、気候変動による金融市場へのリスクを評価し、企業がこれらのリスクに対処するための情報開示の枠組みを策定することを目的としています。
情報開示の枠組みとガイドラインの概要
TCFDは、企業による気候変動に関連する情報開示を向上させるため、4つの要素からなる枠組みを提唱しています。これらの要素は以下の通りです。
①ガバナンス
企業が気候変動に対する統合的な統治構造を確立し、取締役会や経営陣がリスク評価と対応策に関与していることを開示することが求められます。
②戦略
企業が気候変動に関連する短期および中長期の事業戦略を開示し、リスクと機会をどのように取り組んでいるかを明確に示すことが求められます。
③リスク管理
企業が気候変動による物理的および遷移リスクをどのように評価し、管理しているかを開示することが求められます。
④指標と目標
企業が気候変動に関連するデータと目標を開示し、その進捗状況を定期的に報告することが求められます。
TCFDの重要性と利点
TCFDに基づく情報開示は、企業にとってさまざまな利点があります。まず第一に、気候変動によるリスクを評価することで、企業は将来の運営における潜在的なリスクを把握し、事前に適切な対策を講じることができます。これにより、企業の持続可能性と競争力を向上させることが可能です。
第二に、TCFDによる情報開示は投資家や金融機関に対して企業の適切なリスク管理と透明性を示すことができます。気候変動は投資価値や資産の評価に影響を与える可能性があるため、投資家はTCFD報告を通じてリスクをよりよく理解し、長期的な投資判断を行うことができます。
さらに、TCFDによる情報開示は持続可能なビジネスに対する市場の需要に応えるものとなります。気候変動対策に取り組む企業は、環境に配慮した製品やサービスを提供し、社会的な信頼と顧客の支持を獲得することができるとされています。
シナリオ分析とは
TCFDは、気候変動による金融市場への影響を理解し、企業の気候変動への適応と対応策を向上させることを目的としたガイドラインを提供しています。その中で、シナリオ分析はTCFD報告の重要な要素の1つとして位置づけられています。
シナリオ分析は、将来の可能性に基づいた予測とリスク評価の手法であり、気候変動による将来の状況を複数のシナリオとして描き出すことによって、企業が直面するリスクや機会を把握するための有力な手段です。TCFDでは、企業が気候変動に対する戦略を策定する際に、複数のシナリオを考慮することを推奨しています。
TCFD報告の要素としてのシナリオ分析
TCFD報告では、シナリオ分析を以下の要素として組み込むことが求められています。
①気候変動に関連するリスクと機会の特定
シナリオ分析を通じて、将来の気候変動によるリスクと機会を特定します。様々なシナリオを構築し、それぞれのシナリオにおいて企業が直面するリスクや機会を評価します。
②複数のシナリオの作成
単一の将来予測ではなく、複数のシナリオを作成します。これにより、不確実性の高い将来に対してもより柔軟に対応できるようになります。
③金融的な影響の評価
各シナリオに基づいて、企業の財務および運営に及ぼす潜在的な影響を評価します。これにより、将来のリスクに対する金融的な準備や対応策を検討することが可能となります。
④持続可能な戦略の策定
シナリオ分析の結果を踏まえて、気候変動に対する適切な戦略を策定します。将来のリスクを軽減し、機会を活用するための具体的な行動計画を立てることが重要です。
シナリオ分析による将来のリスクマネジメントと意思決定の強化
シナリオ分析は、企業の将来のリスクマネジメントと意思決定に対して重要な影響をもたらします。以下はその例です。
①リスクマネジメントの強化
シナリオ分析によって、将来の不確実性を考慮したリスクマネジメントが可能となります。異なるシナリオに対する企業の脆弱性を特定し、リスクに対する適切な対策を講じることで、将来の損失を最小限に抑えることができます。
②投資への影響評価
シナリオ分析は、企業の投資戦略に対しても重要な示唆をもたらします。気候変動による将来のシナリオを踏まえた投資判断により、長期的な価値の向上を図ることができます。
③事業戦略の見直し
シナリオ分析によって、企業は事業戦略を将来の状況に適応させることができます。新たな市場機会の発見やリスク回避のための事業領域の再評価が可能となります。
④顧客との関係強化
シナリオ分析を通じて、企業は持続可能なビジネス戦略を実践し、顧客との信頼関係を強化することができます。環境への配慮が高まる中で、顧客は気候変動に対して責任を持つ企業との取引を好む傾向があります。
シナリオ分析の手法
ここでは、具体的にシナリオ分析をどのように行えばいいかの手法と注意点について詳しく解説します。
シナリオ分析のカテゴリー
シナリオ分析は、様々な手法やアプローチを用いて将来の可能性を探求し、リスクと機会を理解するための有力なツールです。一般的に、以下の4つのカテゴリーに分類されます。
①ベースケースシナリオ
ベースケースシナリオは、現在のトレンドや予測を元にした最もありそうな未来を描き出します。このシナリオは、既存の市場動向や政策の変化を基にしており、比較的確実性の高い将来を想定しています。
②ハイシナリオ・ローシナリオ
ハイシナリオ・ローシナリオとは、楽観的な未来（ハイシナリオ）と悲観的な未来（ローシナリオ）の両方を検討する手法です。これにより、リスクと機会の範囲を広くカバーすることが可能となります。
③シェルシナリオ
シェルシナリオは、気候変動やエネルギー市場などの重要な要因に焦点を当て、それらの要因による異なる未来を描く手法です。異なるシェルシナリオを組み合わせることで、多様な状況を考慮した分析が行われます。
④バックキャストシナリオ
バックキャストシナリオは、目標とする未来の状況に達するために、現在から逆算して必要な戦略や手段を特定する手法です。これにより、望ましい未来を実現するためのロードマップを作成することができます。
シナリオ分析の具体的な実施手順と注意点
シナリオ分析を実施する際には、以下の5つの手順と注意点を順守することが重要です。
①データ収集と要因の特定
シナリオ分析を開始する前に、過去のデータや現在のトレンドを収集し、将来の要因となる可能性のある要素を特定します。気候変動、技術革新、政策変化、市場動向などが該当します。
②シナリオの構築
特定した要因を基に、複数のシナリオを構築します。これらのシナリオは、異なる状況や展望を反映している必要があります。シナリオの範囲が広いほど、より多様なリスクと機会を把握できます。
③データ分析と影響評価
各シナリオに基づいて、企業の財務、運営、市場展望などに及ぼす影響を評価します。これにより、将来のリスクに対する備えや適切な戦略を立案するための情報を得ることができます。
④ステークホルダーの参画
シナリオ分析においては、異なる部門やステークホルダーからの情報と意見を集約することが重要です。異なる視点を反映させることで、より洞察に富んだ分析が可能となります。
⑤リスク管理と戦略の策定
シナリオ分析の結果を踏まえて、企業はリスクマネジメントと戦略策定を行います。リスクを軽減するための対策や機会を活用するための施策を具体的に立案することが重要です。
注意点として、シナリオ分析は将来を予測するものではなく、不確実性を前提としている点に留意する必要があります。将来の状況は予測できないため、複数のシナリオを柔軟に検討し、リスクと機会に対応する柔軟性を持つことが重要です。また、シナリオ分析は定期的な見直しと更新が必要となります。市場や政策の変化に対応するために、シナリオを適宜改訂し、新たな情報を反映させる必要があります。
シナリオ分析は企業にとって強力なツールであり、気候変動によるリスクを理解し、未来に向けた戦略を展望する上での重要な手法です。適切な手順と注意を守りながら、シナリオ分析を実施することで、持続可能な未来への対応をより具体的に推し進めることができます。
TCFD報告とシナリオ分析のメリット
TCFD報告とシナリオ分析は、企業に多くのメリットをもたらします。気候変動のリスク評価や戦略的な意思決定の強化、持続可能性への取り組みと投資家からの評価の向上について解説します。
リスク評価と戦略的な意思決定の強化
シナリオ分析によるTCFD報告は、気候変動によるリスクを評価し、それに対応する戦略を策定する上での強力な手段です。複数のシナリオを検討することで、将来の不確実性にも対応できるリスクマネジメントが可能となります。適切なリスク評価に基づいた戦略的な意思決定は、企業の持続可能性と競争力を高めるための鍵となります。
例えば、気候変動による自然災害などの「物理的リスク」や気候変動による政策変更などの「遷移リスク」をシナリオ分析を通じて評価し、それに対応する事業継続計画やリスク回避策を立案します。さらに、新たな市場機会（再生可能エネルギーへの転換など）を捉え、成長戦略に組み込むことも可能です。
持続可能性への取り組みと投資家からの評価の向上
TCFD報告とシナリオ分析は、企業の持続可能性への取り組みを示す重要な手段となります。気候変動に対するリスク評価とそれに基づく戦略が明確に開示されることで、企業の環境への貢献度や社会的な責任感が評価されます。これにより、企業の持続可能性に対する評価が向上し、ESG（Environmental, Social, Governance）投資を重視する投資家からの信頼を高めることができます。
持続可能性への取り組みは、顧客や従業員、パートナー企業との良好な関係構築にも寄与します。持続可能性に対する真摯な取り組みはブランド価値の向上にも繋がり、企業のイメージ向上に寄与します。
課題と解決策
TCFDに賛同し、シナリオ分析を行うことには多くのメリットがありますが、導入にはいくつかの課題があります。ここでは、シナリオ分析を導入する際のいくつかの障壁とそれらの解決策について解説します。
TCFD報告とシナリオ分析を導入する障壁
企業がシナリオ分析を導入するにはいくつかの障壁がありますが、ここでは以下の4つを紹介します。
①情報収集とデータの不足
シナリオ分析のために必要なデータや情報が十分に収集されていない場合があります。特に、気候変動に関連する将来のシナリオを描くためには、正確で包括的なデータが必要ですが、その入手が難しい場合があります。
②不確実性とリスク評価の複雑さ
シナリオ分析は未来の不確実性を前提としているため、リスク評価が複雑であり、結果を予測することが困難な場合があります。特に気候変動の影響は多様で、複数の要因が絡み合うため、正確な評価が難しいことがあります。
③組織内の意識と文化の変革
TCFD報告とシナリオ分析の導入は、組織全体の意識と文化の変革を必要とします。環境への配慮や持続可能性への取り組みが浸透していない企業では、取り組みの促進と担当者の意識向上が必要です。
④リソースと予算の制約
シナリオ分析やTCFD報告には多くのリソースと予算が必要となります。特に中小企業や新興企業は、導入に際してリソース面での制約がある場合があります。
リソースとサポートの提供・専門機関の活用の重要性
前述の課題や障壁に対処するためには、リソースとサポートの提供、専門機関の活用が重要です。シナリオ分析やTCFD報告に必要なリソースや専門知識が不足している場合、専門のコンサルタントやサードパーティのサポートを活用することが有効です。気候変動に詳しい専門家やコンサルティング企業との協力により、データ収集や分析、報告書の作成などが円滑に進むでしょう。
また、政府や業界団体との連携もTCFD報告とシナリオ分析の導入には有益です。特に政府の規制やインセンティブが持続可能なビジネスへの転換を後押しする場合、企業はより積極的に取り組む動機付けがされます。加えて、業界団体との情報共有やベストプラクティスの共有によって、導入プロセスを効率的に進めることができるでしょう。
まとめ
この記事では、TCFDにおけるシナリオ分析について詳しく解説しました。多くのメリットがあるシナリオ分析ですが、実際に導入するのは簡単ではありません。専門機関からのサポートを受けたり、政府や業界団体との連携が非常に重要です。
また、無料のタンソチェックツールでは、自社で発生するCO2排出量を測定することが可能です。簡単なアカウント登録でご利用いただけますので、併せてご活用下さい。
著者のプロフィール
- タンソーマンプロジェクト発起人であり、タンソチェック開発を行うmedidas株式会社の代表。タンソーマンメディアでは、総編集長を務め、記事も執筆を行う。
福元惇二 
脱炭素経営の教科書