ドイツは再生可能エネルギーの導入において、世界的に著名な成功事例の一つとして知られています。長年にわたる緻密なエネルギー政策と積極的な取り組みにより、ドイツは化石燃料から再生可能エネルギーへの移行を進め、エネルギーの持続可能性と環境への配慮を重視してきました。この記事では、再生可能エネルギーの概要、再生可能エネルギーの種類、そして、ドイツが再生可能エネルギー導入に成功した要因をFITの導入、産業界と政府の連携、研究開発への投資、地域社会との協力に分けて解説します。
再生可能エネルギーとは
再生可能エネルギーは、地球上に無尽蔵に存在し、かつ再生可能な自然のエネルギー源の総称です。これは、化石燃料などのように枯渇することなく、地球上の自然循環によって持続的に再生されるエネルギーのことを指します。再生可能エネルギーは、主に太陽光、風力、水力、地熱、バイオマスなどの形態で利用されます。
再生可能エネルギーの利用は、二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量を削減し、地球温暖化の緩和に寄与します。また、再生可能エネルギーの採用は、化石燃料に依存することで発生するエネルギーの供給リスクを低減し、エネルギーの安定供給を確保することにもつながります。さらに、再生可能エネルギーの普及は、地域経済の活性化や雇用創出にも寄与し、エネルギーの持続可能性に向けた社会的な意識を高める役割を果たします。
近年、多くの国や企業が再生可能エネルギーへの移行を推進しており、その普及が進む中で、コストの低減や技術革新が進展しています。再生可能エネルギーは、持続可能な社会の実現に向けて不可欠なエネルギー源として、ますます重要視されています。再生可能エネルギーの導入によって、地球の環境と経済にポジティブな影響を与えることが期待されています。
再生可能エネルギーの種類
ここでは、前述の再生可能エネルギーについて、その具体的な種類を紹介します。
風力発電
風力発電は、風の力を利用して電気エネルギーを生み出すシステムです。風力タービン、ジェネレーター、および制御システムから構成されます。風力タービンは風を受けて回転し、その動力をジェネレーターを通じて電気エネルギーに変換します。また、制御システムによって風向や風速を検知し、タービンの角度を最適化することで、最大限のエネルギーを得るように制御します。
再生可能エネルギー源であるため、地球温暖化対策に貢献するとともに、風が吹く限り持続的に電力を供給できる点が特徴です。また、比較的コンパクトなスペースで多くのエネルギーを生み出せるため、地域の電力需要を満たす有望な選択肢とされています。
太陽光発電
太陽光発電は、太陽光を利用して電気エネルギーを発電するシステムです。太陽光パネル、インバーター、および電力制御装置から構成されます。太陽光パネルは太陽光を受けて直流電力を発生し、インバーターを通じて交流電力に変換します。さらに、電力制御装置によって発電量を制御し、電力を効率的に供給します。再生可能エネルギー源であるため、地球上の自然エネルギーを利用し、再生可能なエネルギー源となります。
太陽光は広範囲にわたって利用できるため、多くの場所で導入が可能です。太陽光パネルの寿命は長く、メンテナンスが比較的容易であるため、コスト効率に優れています。
バイオマス発電
バイオマス発電は、有機物(植物由来の生物資源や動物由来の廃棄物など)を燃焼させることによってエネルギーを生み出すシステムです。バイオマス燃料供給装置、燃焼炉、蒸気タービン、および発電機から構成されます。バイオマス燃料供給装置はバイオマス燃料を燃焼炉に供給し、燃焼炉はバイオマス燃料を燃やして高温にし、熱エネルギーを発生させます。
その後、蒸気タービンによって高温の蒸気で回転し、発電機を通じて電気エネルギーに変換します。再生可能エネルギー源であるため、化石燃料と比較して二酸化炭素の排出量を削減できる点が特徴です。また、廃棄物や農業副産物などの利用が可能なため、リサイクルされることで環境負荷を低減できる点も魅力です。
水力発電
水力発電は、水の力を利用して電気エネルギーを生み出すシステムです。ダム、水車、発電機、そして送電線から構成されます。ダムは水を貯めるための人工の堰であり、水車は水の流れによって回転します。回転した水車は発電機を通じて電気エネルギーに変換され、送電線を通じて供給されます。
水力発電の特徴は、再生可能エネルギー源であるため、化石燃料に依存することなくエネルギーを生み出せる点です。また、水力発電は持続的な発電が可能であり、安定した電力供給を確保することができるため、地域の基幹電源として重要視されています。
ドイツが再生可能エネルギー導入に成功した要因
ドイツが再生可能エネルギー導入に成功した要因は、複数の要素が組み合わさった結果としています。その中でも特に重要な要因には、FIT(固定価格買取制度)の導入、産業界と政府の連携、研究開発への投資、そして地域社会との協力が挙げられます。
FITの導入
ドイツでは、再生可能エネルギーの普及を促進するためにFITと呼ばれる固定価格買取制度を導入しました。FITは、再生可能エネルギー発電事業者が電力を固定価格で買い取る仕組みです。この制度により、再生可能エネルギー発電事業に投資することが安定して利益を上げることが可能になり、事業者の投資意欲が高まりました。FITは、再生可能エネルギーの普及に不可欠なメカニズムとしてドイツの成功に大きく貢献しました。
産業界と政府の連携
ドイツの再生可能エネルギー導入には、産業界と政府の連携が欠かせませんでした。政府は再生可能エネルギーの導入を支援する法律や規制を整備し、FIT制度を導入するなど、政策的なバックアップを行いました。一方、産業界は技術革新や効率向上に取り組み、再生可能エネルギー技術の発展に寄与しました。産業界と政府が連携し、共同で再生可能エネルギーへの取り組みを推進したことが、ドイツの成功の要因となっています。
研究開発への投資
ドイツは、再生可能エネルギー技術の研究開発にも大きな投資を行いました。太陽光発電や風力発電などの技術革新やコスト削減に注力し、さまざまな技術の進化を実現しました。研究開発への投資によって、より効率的で持続可能な再生可能エネルギー技術の実現が進み、市場での競争力が高まりました。研究開発への積極的な投資は、ドイツが再生可能エネルギーの導入を成功させた要因の一つです。
地域社会との協力
ドイツでは、再生可能エネルギーの導入において地域社会との協力が重要な役割を果たしました。再生可能エネルギー発電施設は地域に影響を及ぼすことがありますが、地域住民の参加や理解を得ることが成功の鍵となりました。ドイツでは地域社会とのコミュニケーションを重視し、地元のニーズや環境への配慮を反映させることで、再生可能エネルギーの導入が円滑に進みました。地域社会との協力により、再生可能エネルギーの普及が進展した点は、ドイツの成功に大きく寄与しています。
ドイツのエネルギー事情
ドイツは再生可能エネルギーの導入に向けた具体的な目標を掲げる「再生可能エネルギー法」の改正案(EEG2023)を2022年3月4日に公開しました。この改正案により、ドイツは2035年までにほぼ完全に再生可能エネルギーによって賄う温室効果ガス中立な電力供給を目指しています。ここでは、ドイツのエネルギー事情を、風力発電、太陽光発電、バイオマス発電、原子力発電に分けて解説します。
風力発電
2020年時点のドイツ国内の陸上風力発電の設備容量は54.4GWでした。改正案では、2030年までの目標として、2024年に67GW、2026年に79GW、2028年に94GW、2030年に110GW、2035年に152GW、2040年に160GWを目指します。これにより、陸上風力発電の設備容量を急速に増やし、再生可能エネルギーの導入を推進しています。特に2030年以降の目標では、劇的な成長を見込んでおり、これによってドイツの再生可能エネルギー政策が大きく前進することが期待されています。
太陽光発電
2020年時点のドイツ国内の太陽光発電の設備容量は53.7GWであり、陸上風力発電に次いで大きな割合を占めています。EEG2023では、太陽光発電の設備容量を大幅に増やすことを目指しています。2030年までの目標として、2024年に88GW、2026年に122GW、2028年に161GW、2030年に200GWを目指します。
2035年以降の目標では、太陽光発電の設備容量をさらに拡大し、2035年に284GW、2040年に363GW、2045年には400GWを目指します。太陽光発電の入札容量も大幅に引き上げられ、急速な成長を実現するための措置が取られています。
バイオマス発電
バイオマス発電は、他の再生可能エネルギー源とは異なり、年次別の設備容量目標の記載がありませんが、EEG2021と同様に2030年の目標は8400MWに据え置かれます。バイオマス発電は、再生可能な生物由来の廃棄物や資源を燃料として利用し、エネルギーを生み出す方法です。ドイツでは、バイオマス発電にも重要な役割が期待されており、持続可能なエネルギー供給の実現に寄与しています。
原子力発電
原子力は再生可能エネルギーではありませんが、2023年にドイツは原子力発電に関して大きな動きを行ったのでここで紹介します。2023年4月15日、最後の原子炉が発電のための運転を停止し、60年以上にわたるドイツの原子力発電の歴史に幕を下ろしました。この脱原発の決断は、ロシアのウクライナ侵攻後にエネルギーの供給不安を抱える中で行われたものであり、電力不足や価格の高騰などさまざまな影響を市民は受け止めています。
脱原発に踏み切った背景には、2000年6月に中道左派の社会民主党と反原発を掲げる緑の党の連立政権が、すべての原発を運転開始から32年以内に廃止することを合意したことがあります。ドイツは世界第4の経済大国であり、原子力エネルギーが総発電量の3割を占める重要なエネルギー源でしたが、この連立政権は野心的な決断を下し、原発全廃を目指すこととなりました。
政権交代後の中道右派のメルケル政権は、2010年に産業界の意向を受けて一度は原発の運転期間を延長することを決定しました。しかし、翌年には日本の福島第一原発の事故が発生し、メルケル氏は「日本ほど技術水準の高い国も原子力のリスクを完全に制御することはできない」と述べ、国内の17基の原子炉の運転を2022年末までにすべて停止することを決定しました。こうして、ドイツの原発は順次廃止されることとなりました。
原発全廃の進捗は、ロシアのウクライナ侵攻後にエネルギー供給不安が生じたことで一時的に先送りされましたが、最終的に2023年4月15日に3基の原子炉が送電網から切り離され、ドイツの原子力発電の歴史に終止符が打たれました。ドイツは自動車産業が盛んな日本と共通点を持つ国でありながら、独自のエネルギー政策を掲げ、脱原発に踏み切ったことは国内外で驚きをもって伝えられました。今後、脱原発の影響やエネルギー政策の展望について、多くの議論が行われると言われています。
まとめ
この記事では、再生可能エネルギーの概要、再生可能エネルギーの種類、そして、ドイツが再生可能エネルギー導入に成功した要因をFITの導入、産業界と政府の連携、研究開発への投資、地域社会との協力に分けて解説しました。また、ドイツの再生可能エネルギーの現状、原子力発電の歴史についても触れました。再生可能エネルギー導入においては、ドイツから学ぶべきことは数多くあるとされています。日本においても、ドイツの事例を活用することが2030年目標や2050年目標を達成する近道になる可能性が高いと言えます。
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著者のプロフィール
- タンソーマンプロジェクト発起人であり、タンソチェック開発を行うmedidas株式会社の代表。タンソーマンメディアでは、総編集長を務め、記事も執筆を行う。