環境の変化とエネルギーの危機が深刻化する中、エネルギーの効率的な利用は世界中で取り組まなければならない課題となっています。この課題に対処するため、日本では「省エネ法」が施行されました。その取り組みの中心となるのが、省エネ活動に関する定期報告です。
この記事では、省エネ法における定期報告の目的、概要、そして具体的な記載内容について詳しく解説します。定期報告を行う必要のある事業者や、今後、対象事業者になる可能性がある方には必見の内容となっています。ぜひ最後までご覧ください。
省エネ法とは?
エネルギーの効率的な利用を促進するための法律、それが「省エネ法」です。エネルギーの消費が増えている現代社会において、持続可能な経済と環境の両方を守るためにこの法律が設けられました。
目的と背景
省エネ法は、正式には「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」と呼ばれます。この法律は1973年のオイルショックをきっかけに、1979年に施行されました。それ以降、複数回にわたる改正を経て、現在の形になっています。
省エネ法が制定された目的は、主に3つあります。
- エネルギーの供給の安定
- 環境対策の推進
- 経済の効率化
それぞれ簡単に解説していきます。
エネルギーの供給の安定
1970年代のオイルショックは、中東の政情不安やOPEC(石油輸出国機構)の減産決定を背景に、石油価格が急激に高騰した事件です。日本のような石油輸入に依存する国々は、エネルギー供給の不安定さとその経済的影響を痛感しました。これにより、エネルギー供給の多様化や石油への依存度を低減する取り組みが求められました。省エネ法は、このような背景から、エネルギー消費の効率化を通じて国内のエネルギー供給の安定を図る目的で導入されたのです。
環境対策の推進
20世紀後半以降、工業化の進展や生活スタイルの変化に伴い、エネルギーの消費量が増加し、それに伴って二酸化炭素などの温室効果ガスの排出量も増加しました。炭素、その中でも二酸化炭素は地球温暖化の主な要因とされ、さまざまな環境問題を引き起こしています。例えば、海面上昇や異常気象などです。省エネ法は、エネルギーの効率的な利用を促進することで、これらの環境問題への対策として位置づけられています。
経済の効率化
エネルギーの無駄な使用は、企業にとっても大きなコストとなります。エネルギーの効率的な使用は、コスト削減だけでなく、製品の品質向上や生産性の向上など、経済的なメリットを多くもたらします。また、エネルギー資源の有効活用は、国全体の経済的な持続可能性の向上にも寄与します。省エネ法は、このような観点から、エネルギーの効率的な利用を促進することを目指しています。
省エネ法の対象事業者
省エネ法の対象事業者は、原油換算で年間1,500kl以上使用する事業者です。これに該当する場合、定期報告を行う必要があります。今回は、2つの分野における対象事業者を紹介します。1つは工場や事業場、運輸事業者、もう1つは機械や家電製品の製造・輸入業者です。
工場や事業場、運輸事業者
大きな工場や事業場、そして運輸業者は、エネルギーの使用方法や省エネの取り組みについての報告が必要です。もし、十分な努力が見られない場合、改善のためのアドバイスや計画の提案が行われます。
機械や家電製品の製造・輸入業者
機械や家電製品を作る、または輸入する業者は、製品のエネルギー効率を上げる目標が示されます。目標に達していない場合、改善の勧告が出されることもあります。
省エネ法における定期報告とは?
省エネ法における定期報告とは、特定の事業者が自身のエネルギー使用状況や、取り組んでいる省エネ活動に関する情報を、定期的に国に報告することです。では、一体どのような目的で定期報告が行われているのでしょうか。詳しく解説していきます。
定期報告の目的
定期報告の目的は、省エネに関する取り組みを定期的に見直したり、計画を策定したりすることです。しかし、事業者にとっては別の目的が2つあると考えられます。1つは専門家などから効果的な指導やアドバイスを受けるため、もう1つは省エネ活動における信ぴょう性を確保するためです。
効果的な指導とアドバイス
事業者が提出した報告書を元に、エネルギーの専門家や行政関係者がその取り組みを評価します。そして、さらなる省エネの方法や改善点など、具体的なアドバイスを事業者に伝えることができるのです。また、高い評価を受けることで、投資家からより多額の投資を受けることにもつながります。
省エネ活動における信ぴょう性の確保
事業者は、定期報告を通して、自身がどの程度エネルギーを節約しているのかを正確に把握し、これを信ぴょう性のある結果として公表します。これにより、消費者や投資家などの第三者が、その事業者のエネルギー節約の取り組みを確認することが可能です。そして、そのデータを参考に、消費者はその企業から商品を購入したり、投資家は投資を行ったりすることができるようになります。
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省エネ法における定期報告の内容とは?
定期報告では、どのようなことを報告しなければならないのでしょうか。細かく見るとさまざまな情報を記載する必要がありますが、今回は簡単に分かりやすく記載内容を解説します。報告に必要な情報は、大きく分けて下記の5つです。
- 事業者の基本情報
- エネルギーの使用量
- 省エネ活動の詳細
- 省エネ活動の実績
- 今後の取り組みや計画
1つずつ見ていきましょう。
事業者の基本情報
これは事業者を特定するために必要なデータです。具体的には、企業名や住所、そして事業内容などを記載する必要があります。
エネルギーの使用量
ここでは、自社で使っているエネルギー量とその種類を詳しく記載します。電気やガス、石油の使用量、そして令和4年度の省エネ法改正により追加された原子力や再生可能エネルギーの使用量も含めなければなりません。
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省エネ活動の詳細
自社で行っている省エネ活動の詳細について、具体的に書きましょう。例えば、LED電球を使用して照明の電力を半分にした、などです。また、使用したエネルギーの計算方法や、非化石エネルギーの使用量を示す証明書の情報も必要です。
省エネ活動の実績
ここでは、上記の省エネ活動でどれだけのエネルギーを節約できたか、その成果を示します。
今後の取り組みや計画
エネルギーの使用に関係している原単位と電気需要平準化評価原単位が改善できなかった場合、改善ができなかった理由と、今後の改善計画を書く必要があります。しかし、原単位と電気需要平準化評価原単位とは、一体何なのでしょうか。
原単位
「原単位」とは、1つの製品を作る際にどれだけのエネルギーや時間が必要かを示す単位のことです。この値が小さければ小さいほど、製品の製造がより効率的に行われているということを意味します。この原単位は、環境の観点からも重要視され、エネルギーの効率的な使用や二酸化炭素排出量の指標としても利用されるようになりました。
電気需要平準化評価原単位
「電気需要平準化評価原単位」は、電気使用量の効率を測るための特別な指標です。7~9月と12~3月の8時から22時という時間帯は、全国での電気の使用量が多くなるため、「電気需要平準化時間帯」と呼ばれています。電気需要平準化評価原単位では、この時間帯の電気使用量を重視し、1.3倍の重みをつけて評価します。
この時間帯での電気使用量を削減することで、より安定した電力供給できるようになります。そのため、削減効率を他の時間帯よりも効果的にすることで、事業者の削減意欲をかきたてようとしたのです。
参照:電気需要平準化について
参照:-2023年度版-省エネルギー法 定期報告書・中長期計画書(特定事業者等)記入要領
また、特定の事業者は上記に加えて、より詳細な報告が求められています。詳しくは、こちらをご覧ください。
参照:-2023年度版-省エネルギー法 定期報告書・中長期計画書(特定事業者等)記入要領 [エネルギー管理指定工場等単位の報告] p.126~
参照:-2023年度版-省エネルギー法 定期報告書・中長期計画書(特定事業者等)記入要領 [認定管理統括事業者の報告] p.163~
省エネの取り組み事例は?
最後に、省エネの取り組み事例を紹介します。今回は、省エネ活動の中でも特に優秀な取り組みや製品である「省エネ大賞」を受賞したものをいくつか取り上げました。
省エネ大賞
省エネ大賞は、他者に模範となるような省エネ活動や、省エネに優れた製品・ビジネスモデルを評価・表彰するものです。この表彰を通じて、オンラインでの受賞者発表、ビデオ審査、各種情報発信などを行い、日本全国の省エネ意識を高め、省エネ社会を推進することを目指しています。省エネ大賞には、2つの部門があります。
省エネ事例部門
企業や組織、事業場、事務所などでの省エネ活動を対象とします。現場の小集団活動や他組織との連携での省エネ取り組みも評価の対象となります。
製品・ビジネスモデル部門
当該年度の11月1日までに国内で購入可能な省エネに優れた製品を対象とします。これには、業務用・家庭用製品、運輸や建築分野の製品、さらにその要素となる部品や材料も含まれます。省エネ効果をもたらすビジネスモデルも評価の対象となります。
省エネ大賞の受賞者
ここからは、各表象種から1つずつ、2022年度の省エネ大賞の受賞者を紹介します。
- 経済産業大臣賞:株式会社 豊田自動織機
- 資源エネルギー庁長官賞:株式会社 ヤクルト本社 中央研究所
- 中小企業庁長官賞:サンエー電機 株式会社
- 省エネルギーセンター会長賞:トヨタ自動車 株式会社
- 審査委員会特別賞:株式会社 生晃
経済産業大臣賞:株式会社 豊田自動織機
経済産業大臣賞の受賞者は、株式会社豊田自動織機です。豊田自動織機は、安城工場でのLNG(液化天然ガス)使用量の削減に関する省エネルギーの取り組みを進めています。電子部品の製造工程では、静電気から製品を守るために特に湿度管理が重要となります。
しかし、株式会社豊田自動織機は、湿度管理に大量の蒸気を使うのではなく、イオナイザーや空間除電装置を使用する方法を研究しました。結果として、LNGの使用を40%削減することができました。
資源エネルギー庁長官賞:株式会社 ヤクルト本社 中央研究所
資源エネルギー庁長官賞を受賞したのは、株式会社ヤクルト本社中央研究所です。ヤクルト本社中央研究所は「環境ビジョン2050」に向けての省エネ活動により一層、力を入れるようになりました。その活動の一環として、研究所でのエネルギー使用量を20%削減しました。さらに、2022年までに温室効果ガスを10%削減する目標も前倒しで達成する見通しです。
中小企業庁長官賞:サンエー電機 株式会社
中小企業庁長官賞の受賞者は、サンエー電機株式会社です。サンエー電機は、省エネ推進チームを設立し、省エネ診断を受けた上で、さまざまな活動を行いました。その取り組みの中で、自社製のIoTシステム(Apple Watchなどのモノがインターネットを利用して、データを集めたり、それを共有したりする技術システム)を活用してエネルギー使用量を8%削減しました。
省エネルギーセンター会長賞:トヨタ自動車 株式会社
省エネルギーセンター会長賞を受賞したのは、トヨタ自動車株式会社です。トヨタ自動車では、生産工場の電力使用のピーク値を下げる取り組みを行っており、結果として大きな電力の節約を果たしました。
審査委員会特別賞:株式会社 生晃
審査委員会特別賞を受賞したのは、株式会社 生晃です。生晃は、省エネ診断を基に、専門家のアドバイスを受けてさまざまな省エネ活動を行いました。その結果、電力使用量を19%削減することに成功しました。
参照:2022年度(令和4年度)省エネ大賞
関連記事はこちら:中小企業も行うべきカーボンニュートラルとは?取り組み方法や事例も解説
まとめ
省エネ法とは、「エネルギーの使用の合理化及び非化石エネルギーへの転換等に関する法律」のことです。この法律に基づいて、原油換算で年間1,500kl以上使用する事業者は、省エネにおける取り組みについて定期的に報告しなければなりません。これには、事業者に省エネの取り組みを見直させるねらいがあります。さらに、専門家から適切なアドバイスを受けたり、省エネ活動の信ぴょう性を高めたりといったメリットが事業者側にあります。
定期報告には、事業者の基本情報、エネルギーの使用量、省エネ活動の詳細、省エネ活動の実績、今後の取り組みや計画を記載する必要があります。このように、省エネ法における定期報告は、日本のエネルギー政策の一環として、持続可能な社会と自然環境の保護を目指すための重要な取り組みとなっています。
中小企業でも取り組める省エネ活動には、さまざまなものがあります。その中でも特に大切なのは、二酸化炭素の排出量を計算することです。弊社では、無料でその排出量を計算するサービスを提供しています。ぜひご活用ください。
参照:タンソチェック【公式】 -CO2排出量算定削減サービス
著者のプロフィール
- 小学校教員として、カーボンニュートラルや脱炭素に関する授業を行った経験がある。子どもたちが理解できるように、専門用語を分かりやすく、かみ砕いて説明することを心がけた。この経験を活かし、脱炭素化の重要性を広く伝えるために、誰にとっても理解しやすい記事を作成している。