「低炭素社会実行計画とは、何か?」

「その取り組みに、どのくらいの企業が参加しているのか?」

「日本の企業は、どのように計画に取り組んでいるのか?」

今回は、こういった疑問を抱えている方にぜひ読んでいただきたい内容となっています。低炭素社会実行計画の全体像を探るとともに、各企業の目標と成果を具体的に解説します。最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

低炭素社会とは?

低炭素社会とは、産業活動や日常生活において二酸化炭素やその他の温室効果ガスの排出量を大幅に削減することを目的とした社会のことです。その最終目標は、持続可能な環境を実現しながら、経済成長や生活水準の向上を実現することです。しかし、なぜ低炭素社会の実現が目指されているのでしょうか。

実のところ、地球温暖化問題は、大量の温室効果ガスが大気中に排出されることで引き起こされています。このような状況を未然に防ぐために、低炭素社会の実現は不可欠だと言われているのです。

それでは、どのようにして低炭素社会を実現させようとしているのでしょうか。例えば、再生可能エネルギーの導入や促進、エネルギー効率の向上、低炭素技術の研究開発などが上げられます。他にも、国ごとにさまざまな政策を行っています。日本が低炭素社会を実現するために行っている政策の1つ、「低炭素社会実行計画」というものがあります。一体、どのようなものなのでしょうか。

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低炭素社会実行計画とは?

低炭素社会実行計画は、日本の産業界が主導して行う地球温暖化対策の1つです。この計画は、二酸化炭素の排出量を削減することを主な目的としています。具体的には、各業種で最先端の技術を積極的に導入し、エネルギーの効率的な利用を推進することで、事業活動における二酸化炭素の排出量を減らします。

さらに、製品やサービスが生み出される全過程、つまり製造から使用、廃棄に至るまでのバリューチェーン全体での二酸化炭素排出を削減する取り組みも積極的に進められています。2020年2月末時点で、低炭素社会実行計画には、全部で115の業界団体が参加しています。この業界団体は、4つの部門に分かれています。

  • 産業部門:鉄鋼、化学、製紙、セメント、自動車、電子機器などの企業
  • 業務部門:小売店、ショッピングセンター、百貨店などの企業
  • 運輸部門:鉄道、航空、船舶などの企業
  • エネルギー転換部門:電気やガスの供給業者などの企業

さまざまな業界が地球温暖化に対して、積極的に行動を起こしていることが分かります。また、この計画の実施状況については、経済産業省と環境省がそれぞれの業種に対して定期的に評価と検証を行い、進行状況や今後の課題について報告します。そして、その評価・検証の結果は、各種委員会で公にされる形となっています。

この計画は、日本の産業界が以前から継続的に行っている温暖化対策の延長線上にあります。1997年に初めて地球温暖化対策の自主行動計画を策定して以来、その後も改善を重ね、2015年には、2030年を見据えた新たなフェーズの計画が発表されました。

低炭素社会実行計画の歴史

西暦出来事
1997年経団連が「経団連環境自主行動計画」を発表し、日本政府もこれに対するフォローアップの実施を決定。同年、京都議定書が採択される。
2005年日本政府が「京都議定書目標達成計画」を策定し、産業界の自主行動計画を中心的な対策として位置づけられる。
2009年経団連が「低炭素社会実行計画」の基本方針を発表し、2013年以降の計画作りを開始。
2013年自主行動計画から「低炭素社会実行計画」への移行が行われる。
2014年日本政府が自主行動計画の総括的な評価をまとめる。
2015年経団連が「低炭素社会実行計画フェーズⅡ」を発表し、2030年の目標を設定。同年、日本政府も2030年の排出削減目標を設定。
2019年日本政府がパリ協定に基づく長期戦略を策定。
参照:低炭素社会実行計画 ―産業界の地球温暖化対策―

これにより、経団連と日本政府は、1997年の京都議定書の採択以降、継続的に二酸化炭素排出量の削減に向けた取り組みを行っていることが分かります。また、日本の産業界と政府が協力して地球温暖化対策を推進していることも理解できるでしょう。

要するに、低炭素社会実行計画は、日本産業界が自ら進める持続可能な地球温暖化対策です。その進捗は、定期的に評価と検証が行われます。今後も、低炭素社会実現を目標に、積極的な二酸化炭素排出量の削減が目指されていくと考えられます。

政府の役割

日本政府は地球温暖化対策計画の一環として、低炭素社会実行計画を産業界の重要な取り組みとして位置づけています。この計画は、政府が定期的に評価と検証を行っており、毎年度、特定の「4つの柱」に焦点を当ててフォローアップを実施しています。

4つの柱①:事業活動で排出される二酸化炭素の削減目標(2020年・2030年)

1つ目の柱は、事業活動で排出される二酸化炭素の削減です。多くの企業が、2020年と2030年における削減目標を設定しています。政府は、各業界団体から提供されたデータと要因分析に基づき、どれだけ目標に近づいているのかを評価します。これによって、次年度の課題や、目標の見直しが必要かどうかも検討されます。

4つの柱②:低炭素製品やサービスによる産業部門以外での二酸化炭素の削減

2つ目の柱は、低炭素製品やサービスによって産業部門以外でも二酸化炭素の削減が実現されているかどうかです。ここでは、製品やサービスが製造される段階だけでなく、その使用や廃棄に至るまでのすべての段階を含む総合的な評価が行われています。

4つの柱③:海外における二酸化炭素の削減実績

3つ目の柱は、海外における二酸化炭素の削減実績です。国際的な視野に立って、日本の低炭素製品やサービスがどれだけ世界で普及しているか、または途上国への技術移転や国際連携がどれだけ進んでいるかを評価します。

4つの柱④:革新的な技術開発とその導入実績

最後は、将来的に大規模な二酸化炭素排出量の削減が可能な革新的な技術の開発や導入を行っているかどうかです。ここでは、2030年以降も見据えた、より長期的な視点で排出される二酸化炭素を削減しているかを評価していきます。

参照:低炭素社会実行計画 ―産業界の地球温暖化対策―

低炭素社会実行計画の成果とは?

ここからは、低炭素社会実行計画に取り組んだ企業がどのような成果を上げたのか紹介していきます。具体的には、各企業が立てた低炭素化に向けた目標や計画とともに、2020年度においてどのくらい達成できたのか、その成果について説明します。

産業部門

日本化学工業協会

日本化学工業協会は2013年に開始した取り組みの中で、2020年までに150万トン、2030年までに650万トンのCO2削減を目標としました。2020年には目標の150万トンには届かなかったものの、90万トンの削減を達成し、2013年から比べると13.7%の改善が見られました。

日本製紙連合会 

一方で、日本製紙連合会は2020年に139万トンの二酸化炭素の削減を目標にしていましたが、実際には313.3万トンも削減することに成功しました。つまり、目標を大幅に上回る形となり、2013年度と比べても17.1%の削減に成功しています。日本製紙連合会は、今後の目標として、2030年に466万トンの二酸化炭素を削減すると公表しています。

セメント協会

セメント協会は、1つの活動や製品ごとにどれだけのエネルギーが必要かを表す「原単位」を用いて目標を設定しました。具体的には、セメント1トン当たりのエネルギー使用量を表す「エネルギー原単位」を基準としています。セメント協会は、2020年までに1トン当たり39メガジュールのエネルギー削減を、そして2030年には125メガジュールの削減を目標に掲げていました。そして、驚くべきことに、2020年には、すでに187メガジュールの削減に成功しました。2030年の目標である125メガジュールをすでに大きく上回っていることが分かります。

業務部門

日本フランチャイズチェーン協会

日本フランチャイズチェーン協会は、2013年のエネルギー消費(原単位)を基準に、2020年には6.8%、2030年には15.7%のエネルギー消費量の削減を目標としました。その結果、2020年には、目標を超えて8.4%の削減を達成しています。2013年と比べると、18.3%の削減に相当しますが、2030年までの全体の目標に対する進捗は、まだ半分程度です。

日本損害保険協会 

一方、日本損害保険協会は、2020年に150万トン、2030年に650万トンの二酸化炭素削減を目標に掲げて活動を行っていました。この取り組みが開始されたのは2013年で、2020年の実績は、目標の150万トンに60万トン届かない90万トンでした。ただし、2013年からの総削減率は、13.7%となっており、削減自体には成功しています。

日本LPガス協会

日本LPガス協会は、2010年度のエネルギー消費量(原単位)をもとに、2020年に5%、2030年に9%の削減に挑戦しています。2020年の結果を見ると、7.1%の削減を達成し、設定した目標を上回っています。

運輸部門

運輸部門における2020年の成果については、まだ発表されていません、そのため、今回は2013年度の実績について紹介します。

全日本トラック協会

全日本トラック協会は、2005年の二酸化炭素排出量を基準に、2020年には22%、2030年には31%の削減を目指しています。2013年時点で、この目標に対する進捗として、15%の削減を成功させています。

日本民営鉄道協会

日本民営鉄道協会は、2010年度のエネルギー消費(原単位)を基準に、2020年と2030年に5.7%以上のエネルギー削減を目標としています。この数値がやや低く設定されていることから、エネルギー削減が比較的難しい分野である可能性が高いです。しかし、2013年にはすでに6%の削減を達成しており、2030年の目標もクリアしています。

日本船主協会

日本船主協会では、1990年の二酸化炭素排出(原単位)を基準に、2020年には20%、2030年には30%の削減目標を掲げています。驚くべきことに、2013年にはすでに40%の削減を達成しました。これは、2030年の目標を大幅に上回る成果で、特に注目すべき点です。

参照:国土交通省関係業界の自主的取組の進捗状況

エネルギー転換部門

電気事業低炭素社会協議会

電気事業低炭素社会協議会は、二酸化炭素排出量の絶対量と原単位の両方で削減目標を設定しているのが特徴です。具体的には、2020年までに700万トン、2030年には1100万トンの二酸化炭素量の削減を目指しています。原単位による2030年の目標は、0.37kg-CO₂/kWhです。CO₂/kWhは、1キロワット時(kWh)の電気を起こしたときに排出される二酸化炭素量(CO2)をキログラム(kg)で表したものです。

成果については2020年、すでに1060万トンの削減を達成しているため、2030年の目標達成も間近と言えます。ただし、原単位に関しては、0.439kgCO₂/kWhであり、目標には、まだわずかに届いていない状態です。

日本ガス協会

日本ガス協会は、1990年の二酸化炭素排出量を基準にして、非常に野心的な削減目標を設定しました。2020年までには原単位で89%、2030年までには88%の二酸化炭素排出を減らすという目標です。そして驚くべきことに、2020年にはこの目標を上回り、原単位で90%の削減を実現しました。

この成果は偶然ではなく、継続的な努力によるものであることが確認できます。なぜなら、2013年度と比較しても12%の削減を達成しているからです。

石油連盟

石油連盟は、エネルギー消費を原単位とした目標を設定しました。2020年の目標は、53万キロリットルでしたが、実際には、65.4万キロリットルの削減に成功しています。2030年の目標は、100万キロリットルなので、現在のペースで行けば、達成することができると考えられます。

紹介した通り、各団体がそれぞれの方法で二酸化炭素削減に取り組んでいます。さらに詳しい情報や他の企業の取り組みは、経済産業省と環境省が作成した資料にも掲載されているので、そちらも参考にしてください。

参照:2021年度低炭素社会実行計画(カーボンニュートラル行動計画)評価・検証結果及び今後の課題等<概要資料>

関連記事はこちら:脱炭素経営の取り組み事例とは?企業が行うべき理由も解説

まとめ

低炭素社会とは、地球温暖化を引き起こす二酸化炭素などの温室効果ガスの排出を大きく抑えた社会のことです。そして、低炭素社会実行計画は、低炭素社会を実現するために欠かせない戦略の1つで、二酸化炭素排出量の削減の他、エネルギーの効率的な使用なども目的としています。

日本国内の多くの企業も、この計画に沿って目標を設定し、成果を上げています。特に、日本ガス協会は、2020年に1990年度比で90%の二酸化炭素削減を達成しました。ただし、すべての企業が目標を達成しているわけではないので、今後は成功例から学び、取り組みを改善していくことが求められています。

このように多くの企業が低炭素社会を実現させようと取り組みを行っています。ぜひあなたの企業でも、取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。比較的容易に行える取り組みに二酸化炭素の排出量を算出する、というものがあります。弊社では、排出量をかんたんに計算する無料のサービスを提供しております。よろしければ、ぜひご活用ください。
参照:タンソチェック【公式】 -CO2排出量算定削減サービス

著者のプロフィール

川田 幸寛
小学校教員として、カーボンニュートラルや脱炭素に関する授業を行った経験がある。子どもたちが理解できるように、専門用語を分かりやすく、かみ砕いて説明することを心がけた。この経験を活かし、脱炭素化の重要性を広く伝えるために、誰にとっても理解しやすい記事を作成している。