昨今、気候変動という言葉を実感する機会が多くなっています。そんな気候変動問題への対応として、日本政府は2050年カーボンニュートラルの実現に向けてあらゆる取組みを進めています。中でも再生可能エネルギー(以下、「再エネ」)は、今後の主力電源になることが重要課題です。そして、この再エネを牽引しているのが太陽光発電になります。

太陽光発電は、政府の後押しもあって、近年その普及が急激に伸びてきました。その背景にはFIT制度という再エネを使って発電した電力を固定価格で買い取るという制度があります。この記事では太陽光発電やFIT制度との関係、これからの展開を詳しく解説します。

太陽光発電とは

太陽光発電とは、太陽光エネルギーを利用して電力を生成するシステムです。太陽電池上のシリコン半導体等に光が当たると電気が発生する現象を利用しています。太陽光の強さに比例して発電量が増えますが、昨今の技術開発により、その発電効率も格段にアップしてきました。

また、日光が届く場所であればどこでも発電が可能で、その過程も温室効果ガスを排出しないという利点を持っています。このシステムは持続可能なエネルギー源で、環境にやさしく、しかも再生可能なので、世界中で研究が進められています。

なぜ注目されているのか

日本は、「2050年カーボンニュートラル」という宣言をしました。この実現には、温室効果ガスを排出しない再エネの普及が欠かせません。中でも、太陽光発電はエネルギー源が無尽蔵で、発電時に温室効果ガスを発生しないことからカーボンニュートラルの実現に大きく貢献できます。

多くの屋根や土地に太陽光パネルが設置され、住宅や企業が再エネ発電をしています。この普及の背後にはFIT制度が大きく寄与しています。現在のFIT制度の前身として、2009年、太陽光発電の余剰電力の買い取りが、電力会社に義務付けられることとなりました。

その後2012年に施行されたFIT制度(固定価格買取制度)は一般事業者にも開かれていたので、それ以降、再エネの設備容量は急速に伸びています(下図参照)。この伸び率を見れば、FIT制度が与えたインパクトの大きさがわかります。中でも棒グラフのピンク色の部分、太陽光発電が占める割合が際立って多いことが見てとれます。

参照:日本のエネルギー 2022年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」

太陽光発電のメリットとデメリットを知ろう

それでは、なぜ太陽光発電は他の再エネと比べて普及が広がったのでしょうか。太陽光発電にはメリットがある一方でデメリットももちろんあります。ここでは、両方をみていきましょう。

【メリット】

太陽光がエネルギー源なので設置場所を選ばない

太陽光をエネルギー源としているため、日光がある場所ならどこでも発電設備を設置することができます。設置する場所の広さに合わせて自由に規模を決められるため、一般家庭から大規模施設まで、それぞれの施設に合ったシステムを設置できます。

非常用の電源として使えて安心

太陽光発電システムは、停電などの非常事態でも自立運転機能に切り替えれば電源として利用できます。電力会社からの供給が止まった非常時でも電気を使うことが可能です。このことは、送電設備のない山岳地のような遠隔地でも電源として活用することを意味しています。

【デメリット】

天候により発電出力が左右される

太陽光発電は、天候に左右される不安定なものです。発電量と電力消費の予測にもとづいた需給調整や、蓄電池などを利用した電力調整機能を備えることが必要となります。特に太陽光導入量が多い九州エリアではこの問題が顕著で、2018年には国内初の太陽光出力制御を行い、その後もたびたび出力制御が必要になっています。

太陽光パネルの大量廃棄が懸念される

太陽光発電の導入が急激に拡大したことにより、太陽光パネルの寿命である2030年代後半に廃棄のピークが予想されています。これに対処するため、廃棄等費用積立制度が2022年に開始されました。太陽光パネルのリサイクル技術への取り組みもありますが、まだ有効な手立ては確立していません。

太陽光発電の普及を後押ししたFIT制度とは

2012年に経済産業省が施行したFIT(Feed-in Tariff)制度、日本語に訳すと、「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」になります。再エネ発電の普及を促進するのが目的です。どのような制度なのか、資源エネルギー庁の解説を一部引用します。

再生可能エネルギー源(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス)を用いて発電された電気を、国が定める価格で一定期間、電気事業者が買い取ることを義務付けるものです。

参照:FIT・FIP制度よくある質問

簡単に説明すると、FIT制度とは、再エネで作った電気を電力会社が固定価格で買い取る制度になります。事業者は、再エネを使って発電した電気を高価格で電力会社に売ることができ、安定した収益を得ることができます。この制度が開始されてから、再エネ発電の導入が一気に加速しました。

FIT制度のメリット

再生可能エネルギーの普及において、FIT制度は大きく貢献しました。電気事業者の収益安定を提供した結果、設備の導入が進んだことに起因します。しかも、環境に配慮しながらエネルギーの自給率と多様性が向上しました。ここではFIT制度のこのようなメリットについてみていきましょう。

再生可能エネルギーの普及拡大

FIT制度は、再エネ発電をする事業者を増やし、再エネの導入を拡大することを目的に施行されました。この制度により、再生可能エネルギー事業は魅力的な投資先となり、新規参入と技術革新が大きく進むことになりました。現在は再エネが発電量に占める割合が飛躍的に増加しています。

環境保護に貢献

再エネには、化石燃料に比べて温室効果ガスの排出が少ないという利点があります。FIT制度の導入により再エネ発電が増加することは、石炭やガスなどの化石燃料への依存が少なくなり、その結果、CO2などの温室効果ガスの排出も削減されます。このようにFIT制度は、環境への配慮がビジネスの成功につながる仕組みを支えています。

エネルギー自給率が向上

再エネを使うことは、国のエネルギー自給率を向上させることにつながります。日本のエネルギー自給率は、他のOECD諸国と比べても極めて低いのが現状です。一方で、再エネは国内で製造できるエネルギー源なので、外国に依存することなく、経済の安定にもつながります。

FIT制度とFIP制度

FIT制度が導入されたことで、多くの事業者が再エネ発電に参加し、再エネの利用が大幅に伸びました。しかし、この運用には問題もあったので、その対策として2017年に改正FIT法が施行されました。

改正FIT法では、事業者に対して発電設備の保守などを求め、責任をもって発電するように規定されています。また、大規模な発電プロジェクトについては、入札制度を導入し、国民の負担を抑えるための措置も取られました

再エネの自立化を促す新たな制度として2022年からFIP(Feed-in Premium)制度も導入されました。これは、売電価格にプレミアム(補助額)を上乗せする仕組みです。これにより、市場価格に合わせて電力を発電すると、収益を最大化できるメリットがあります。その結果、需給と供給のバランスがとれた電気供給となるよう、設計されています。

FIP制度は、再エネが主要な電力源となるよう、電力市場を改善し、持続可能なエネルギーの普及を促進する目的を持って施行されました。今後数年は、FIT制度と併存されます。

【事例】テーマパーク内でのブルーベリー栽培に太陽光発電を活用

ここで太陽光発電を効果的に活用している事例をひとつ挙げます。長崎県にあるテーマパークのハウステンボスは、再エネ事業への理解が深く、従来から園内に太陽光発電設備を設置していました。そんな中、2019年に営農型太陽光発電を導入してブルーベリー栽培に乗り出しました。

もともとハウステンボスでは、リーフレタスなどを栽培し、園内のレストランで消費していました。このような状況の中、新しい取り組みとして太陽光発電と農業を融合させる事業を始めました。この方法は営農型太陽光発電と呼ばれています。具体的には、人手不足解消のため導入した自動灌水システムを発電した電気で作動させます。

これは、「ソーラーシェアリング」というシステムで、栽培中のブルーベリーの上に太陽光パネルを設置し、発電をおこないます。ブルーベリーは強い日光に弱いので、発電設備が適度に日光を防ぐ役目も果たしてくれます。このシステムのおかげで、ハウステンボスでは電力とブルーベリーを園内で自家消費しています。

太陽光発電のこれから

太陽光発電は、未来のエネルギーとして持続可能なエネルギー源です。FIT制度が施行されてから、太陽光発電の普及は急速に広がりました。それと同時に、当初は高額だった太陽光パネルなどのコストも低減しています。今後も技術開発によって大幅なコストダウンが見込まれる電源です。

海外でも再エネへの投資は増加傾向にあります。特に太陽エネルギーと風力に投資が集中しています。太陽光発電市場が大きく拡大したことにより、発電設備のコストが下がってきました。すでに世界では、従来の電源と同レベルの発電コストを達成した国も出てきています。

次世代の太陽電池ペロブスカイトの開発

新素材を使った太陽電池の研究は常におこなわれています。最近話題になっているのが、日本で研究されている有機無機ハイブリットの「ぺロブスカイト太陽電池」です。これは材料を基板に塗るだけという簡易な製造工程により、大幅な低コスト化が実現できる技術だと期待されています。

また、ぺロブスカイトをフィルムのような薄い基板に塗れば軽量化でき、曲面加工もできるため、今まで太陽電池モジュールの設置が難しかった場所でも太陽光発電ができる可能性があります。家の壁すべてや自動車全体を太陽電池にすることができるかもしれません。現在は、耐久性の強化など実用化に向けた取り組みが進んでいます。

次世代型太陽電池については、研究開発から実証までをグリーンイノベーション基金による支援がされています。こうして軽くて柔軟な太陽光電池の技術開発が進められています。

スマートハウスという未来

屋根やカーポートに太陽光パネルを設置し発電し、電力を蓄電するシステムを備え、住宅で消費する、エネルギー循環型の家が「スマートハウス」です。今までの太陽光発電と違うのは、蓄電池を備えていることです。従来は高価であった蓄電池の価格も下がってきたため、実現可能になりました。

さらに、太陽光発電設備などのシステムをリースで提供できると、初期費用ゼロでグリーンエネルギーを導入できます。また、災害時には非常用電源としても使うことができて安心です。もちろんFIT制度を利用して発電した電気を売ることもできます。これからは、発電して自家消費するスマートハウスが普及するかもしれません。

FIT制度満了後の太陽光発電は

FIT制度の前身である太陽光発電の余剰電力買取制度は2009年から始まりました。買取期間が「10年間」と設定されているので、2019年以降は買取期間の満了をむかえる太陽光発電が出始めています。一般的に太陽光パネルの寿命は20~30年間だとされているので、10年間の買取期間が満了した後でも、発電自体は続けることはできます。

買取期間が満了した住宅用太陽光発電には2つの選択肢があります。ひとつは、自家消費として電気自動車や蓄電池などと組み合わせて、自宅の電力として使う方法です。。もうひとつは、それぞれの住宅と小売電気事業者などが、個別に交渉して契約を結び、余った電力を売電する方法です。

太陽光発電は、温室効果ガスを排出せず国内で生産できるエネルギーで、さまざまなメリットがあります。買取りが終了した後も、自立的な電源として発電していくことが期待されています。

まとめ

日本は太陽光発電分野における国際的なリーダーであり、FIT制度により太陽光発電の普及がより一層進みました。発電時に温室効果ガスを排出しない太陽光発電はカーボンニュートラルの目標に大きな役割を果たします。今後の技術進化とコスト減を願いながら、持続可能エネルギーとしてさらなる成長が期待されます。

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参照:タンソチェック【公式】 – CO2排出量測定削減サービス

著者のプロフィール

福元 惇二
福元 惇二
タンソーマンプロジェクト発起人であり、タンソチェック開発を行うmedidas株式会社の代表。タンソーマンメディアでは、総編集長を務め、記事も執筆を行う。