製造業において、電気代は頭を悩ませるコストの1つです。
しかし、かんたんな節電対策を導入することで、そのコストは大幅に削減できます。

本記事では、電気代の仕組みから、今からできる工場での節電対策を具体的な数値を用いながらわかりやすく解説します。

特に、製造業者にとって、コストを抑えつつ、環境に配慮した経営を目指すために役立つ情報をお届けしますので、ぜひ最後までお読みください。

結論:設備のこまめなメンテナンスから始めるべき

節電対策の第一歩として、設備のこまめなメンテナンスを行いましょう。
製造業において、コンプレッサなどの生産設備は電力消費の83%を占めています。
そのため、生産設備の定期的なメンテナンスでは、特に大きな節電効果が期待できます。

さらに、メンテナンスには特別なコストや手間がほとんどかからないため、最初に取り組むべき節電対策だといえます。

参照:夏季の省エネ・節電メニュー(事業者の皆様)

参照:冬季の省エネ・節電メニュー(事業者の皆様)

製造業の電力計算はどういう仕組みなのか?

まずは、製造業の電力計算の仕組みについて解説します。
電力計算式は、次の通りです。

引用:高圧電力(契約電力500kW以上)|電気料金プラン 高圧・特別高圧|東京電力エナジーパートナー株式会社

電気代とは、基本料金・電力量料金・再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)の3つを合計したものです。

それでは、この3つの料金について、1つずつ確認していきましょう。
なお、高圧電力とは工場などで使われる電力のことです。

一般家庭で使用する電力よりも高い6,6kV(キロボルト)の電力を使用することで、製品の大量生産を可能にしています。
また、高圧電力ではなく業務用電力を使用している場合であっても、電力計算式に変わりはありません。

基本料金の仕組み

基本料金とは、使った電力量に関わらず、毎月支払う必要がある料金です。
これは、使用する電力がゼロだったとしても、一定のコストが発生するためです。

基本料金は、次の計算式に基づいて計算されます。

基本料金 = 料金単価 × 契約電力 × (185 – 力率) / 100

料金単価

料金単価は、電力会社が定める1kW(キロワット)あたりの料金です。
会社によって異なるため、具体的な金額は電力会社のサイトで確認したり、直接問い合わせたりするといいでしょう。

ちなみに、東京電力では、1,913円37銭に設定されています。

参照:高圧電力(契約電力500kW以上)|電気料金プラン 高圧・特別高圧|東京電力エナジーパートナー株式会社

契約電力

契約電力は、1ヶ月の間に利用できる電力の最大量のことです。
この数値は、過去1年間における最大の電力使用量に基づいて設定されており、電気の料金詳細書にも書かれています。

もし、契約電力を超過してしまった場合は、基本料金 × 1.5倍の契約超過金を支払う必要があります。

参照:Ⅴ 使用および供給|東京電力

力率

力率は、供給された電力のうち、実際にどれだけの量が使われたかを示す割合のことです。
力率が85%を超える場合、基本料金は少し安くなります。
しかし、85%未満の場合は少し高くなります。
この力率も、電気料金の明細書で確認可能です。

電力量料金の仕組み

電力量料金は、実際に消費した電力量に基づく料金です。
つまり、電気をどれだけ使ったかによって、この料金が変わります。
電力量料金の計算式は、次の通りです。

電力量料金 = 「夏季」または「その他季」の料金単価 × 使用電力量 + 燃料費等調整額

「夏季」または「その他季」の料金単価

「夏季」または「その他季」の料金単価とは、1kWの電力を1時間使ったときにかかる料金のことです。
この単価は、夏(7月1日~9月30日)とそれ以外の季節によって異なり、夏の方が高く設定されています。

夏は冷房が盛んに使用されるため、電力会社は他の季節よりも大量の電力を供給しなければなりません。
そのため、夏は発電コストが増加するのです。

具体的な料金単価については、電気料金の明細書に記載されています。
なお、東京電力では夏季は22円46銭、その他季は21円45銭に設定されています。

参照:高圧電力(契約電力500kW以上)|電気料金プラン 高圧・特別高圧|東京電力エナジーパートナー株式会社

使用電力量

使用電力量は、1kWの電力を1時間使ったときに使用した電力量を指します。
この電力量も、電気料金の明細書で確認できます。

燃料費等調整額

燃料費調整額は、電力会社が発電のために使う燃料の価格変動によって、増減する料金です。
この額は、使用電力量に燃料費調整単価をかける計算がされます。

燃料費調節単価は、電力会社のサイトや検針票で確認することができます。
まったく電気を使用していない場合、この料金は半額になります。

再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)の仕組み

再エネ賦課金とは、再生可能エネルギーの普及を後押しするための費用で、電気を使用するすべての人が支払うものです。
再生可能エネルギーとは、太陽光や風力など、自然のエネルギーを利用した発電のことを指します。

この賦課金の計算は非常にシンプルで、使用した電力量に再エネ賦課金単価をかけるだけです。
また、再エネ賦課金単価は、経済産業省によって毎年定められています。

2023年5月から2024年4月までは、1kWhあたり1円40銭です。

参照:再生可能エネルギーのFIT制度・FIP制度における2023年度以降の買取価格等と2023年度の賦課金単価を設定します (METI/経済産業省)

5秒でできる工場の節電対策5選

それでは、すぐに行える工場の節電対策を5つご紹介していきます。

  • 照明のLED化
  • 使わない照明の消灯・間引き
  • 設備のこまめなメンテナンス
  • デマンド監視装置の導入
  • 空調の設定温度の調節

それぞれ順番に解説していきます。

照明のLED化

照明のLED化は、多くの企業で取り入れられている効果的な節電対策の1つです。
特に、白熱灯を使用している企業の場合、節電効果は約85%にも上ります。
つまり、現在支払っている電気代の約15%ほどで済むというわけです。

また、蛍光灯を使用している場合は、LEDに切り替えることで約50%の節電効果があります。

白熱灯からLEDに切り替えたときほどではありませんが、大きな節電効果があると言えるでしょう。
参照:LED照明への買換え効果|省エネ製品買換ナビゲーション「しんきゅうさん」

しかし、なぜLED照明は他の照明よりも大きい節電効果があるのでしょうか。
これは、LEDの寿命が他の照明よりも長いためです。
こちらの表をご覧ください。

種類寿命
白熱灯約1,000時間
蛍光灯約6,000~10,000時間
LED照明約40,000時間

白熱灯の寿命は約1,000時間、蛍光灯の寿命は約6,000〜10,000時間だといわれていますが、LED照明の寿命はなんと約40,000時間にも及びます。

これにより、頻繁な電球交換やそれに伴うコストまでも削減できるのです。

参照:照明 | 無理のない省エネ節約 | 家庭向け省エネ関連情報 | 省エネポータルサイト

使わない照明の消灯・間引き

照明の必要性が低い、または自然光で十分な明るさのある場所では、消灯や間引きを行いましょう。
十分な明るさがあるかどうかの判断は、下記のJISの照度基準を参考にしてください。

引用:省エネの進め方と現場で役立つ着眼点 p.14 ■照度基準(JIS Z9110:2011)

それでは、消灯や間引きには、どれほどの節電効果があるのでしょうか。
ある電線・ケーブル製造業者が水銀灯151台の消灯や間引きを行った結果、年間で約19,365kWhの電力消費を削減し、コストも約310,000円の節約できました。

参照:省エネの進め方と現場で役立つ着眼点 p.14

設備のこまめなメンテナンス

設備のメンテナンスは、大きな節電効果を生み出します。
これは、工場などで使用されるコンプレッサーなどの生産設備が、電力消費全体の約83%を占めているからです。
そのため、これらの設備効率を向上させるだけで、電力消費を抑えられます。

具体例として、輸送用機械器具製造業の事例を見てみましょう。

ここでは、5台のコンプレッサの吐出圧力を0.7MPaから0.6MPaに下げるだけで、年間7,503kWhもの電力を削減し、約120,000円の節電効果がありました。

さらに、空気配管からのエア漏れも無視できない要因です。
この問題も定期的にメンテナンスを行うことで、コンプレッサの電力消費量を抑えることができます。

実際、輸送用機械器具製造業の事例では、エア漏れ対策を行うことで年間9,379kWhの電力を削減し、コストも約150,000円も削減できました。

参照:省エネの進め方と現場で役立つ着眼点 p.14

デマンド監視装置の導入

デマンド監視装置の導入は、電力の使い方を把握し、無駄な電力消費を抑制するために重要です。
この装置は、電力の使用状況を常にチェックします。

もし、設定した電力消費量を超えた場合、アラームが鳴ります。
このときに空調の出力を落としたり、不要な照明を消すことで、すぐに電力使用量を抑えることが可能です。

ある建設会社の事務所では、デマンド監視装置を利用して契約電力を475kWから290kWに下げることができ、年間で約3,810,000円のコスト削減が実現しました。

参照:省エネの進め方と現場で役立つ着眼点 p.16

空調の設定温度の調節

空調の設定温度を適切に調整することは、簡単ですが非常に効果的な節電対策の1つです。

具体的には、夏場は冷房温度を1度上げる、冬場は暖房温度を1度下げるだけで、電力消費を約10%削減できるといわれています。

空調機10台の設定温度の調整を実施した伸線・圧延業の事業者によると、年間で約2,956kWhの電力を節約、さらに約47,000円のコスト削減に成功しました。

この例から、設定温度を1度緩和する小さな取り組みであっても、しっかりと節電効果があることがわかります。

参照:省エネの進め方と現場で役立つ着眼点 p.12

まとめ

この記事では、次の5つの工場の節電対策をご紹介いたしました。

  • 照明のLED化
  • 使わない照明の消灯・間引き
  • 設備のこまめなメンテナンス
  • デマンド監視装置の導入
  • 空調の設定温度の調節

製造業において、最も大切なのは、設備のこまめなメンテナンスです。

特に、生産設備が占める電力消費は全体の約83%と言われています。
そのため、コンプレッサの吐出圧力を調整したり、空気配管からエア漏れしていないかを確認したり、対処したりするだけで、かなりの節電対策となります。

実際にとある輸送用機械器具の製造業者は、コンプレッサの吐出圧力を調整して約120,000円、空気配管からのエア漏れ対策を行い、約150,000円ものコスト削減に成功しています。

参照:省エネの進め方と現場で役立つ着眼点 p.14

また、節電対策を行うことでCO2排出量の削減にもつながります。
この削減量が企業の評価に直結するようになっているため、こちらの対策も進めていきましょう。

簡単に行える対策の1つに、自社のCO2排出量を調べるというものがあります。
タンソチェックでは、無料でその排出量を算定できるサービスを提供していますので、ぜひご活用ください。

著者のプロフィール

川田 幸寛
小学校教員として、カーボンニュートラルや脱炭素に関する授業を行った経験がある。子どもたちが理解できるように、専門用語を分かりやすく、かみ砕いて説明することを心がけた。この経験を活かし、脱炭素化の重要性を広く伝えるために、誰にとっても理解しやすい記事を作成している。