中国の脱炭素への挑戦!エコ技術が世界を救う
中国の脱炭素への取り組みは、近年目まぐるしい速さで進み世界を先導しています。2023年中国の再エネ発電容量は、1,200Tw(テラワット)を超え米国の3倍、日本の6倍以上の再エネ導入量を実現しています。
出典:Country Ranking / Renewable energy power capacity – IRENA
壮大な中国の脱炭素のスケールに世界が圧倒される中、どのような政策を採っているか、どのような再生可能エネルギーのプロジェクトがあるのか気になる人は多いでしょう。この記事では中国の脱炭素について、簡潔にまとめて紹介します。
中国の脱炭素を目指す計画とは?
世界最大の国土と人口・消費を誇る中国は、CO2排出量においても世界一です。世界全体のCO2排出量の3分の1(約28%)を中国が占めています。このような背景もあり、中国ではどこよりも深刻に脱炭素が急がれています。中国ではどのような政策が取られているのか、最初に見ていきましょう。
※当記事ではGHG(温室効果ガス)の大半がCO2が占めているため総じてGHG=CO2とまとめて表現しています。
出典:
Country Ranking / Renewable energy power capacity – IRENA
CO2 emission – Our World in Data
中国政府のカーボンニュートラル達成への政策と戦略
2020年9月に中国政府が国連で発表したカーボンニュートラルの目標は、まず2030年までにカーボンピークアウトを実現することでした。上昇し続けていたCO2排出量を、ピークから減少に向かわせることが先決だとされたのです。中国のカーボンニュートラル達成目標は、以下の通りです。
- 2030年までにカーボンピークアウトを実現
- 2060年までにカーボンニュートラルを実現
そして、最終ゴールとして2060年までにカーボンニュートラルを実現する旨が表明されました。2021年10月には具体的な脱炭素計画・行動指針として、「カーボンピークアウトとカーボンニュートラルの完全、正確かつ全面的な実施に関する意見」と「2030年までのカーボンピークアウトに向けた行動方案」を発表しました。
参照:カーボンニュートラルに向けた中国政府、企業の対応状況 – JETRO
1.カーボンピークアウトとカーボンニュートラルの完全、正確かつ全面的な実施に関する意見
項目 | 2025年 | 2030年 | 2060年 |
CO2排出量(対GDP) | 18%削減(2020年比) | 65%削減(2005年比) | |
非化石エネルギー消費量 | 20%程度 | 25%程度 | 80%以上 |
風力・太陽光発電の設備容量 | ー | 12億kW以上 | ー |
森林カバー率 | 24.10% | 25%程度 | |
森林蓄積量 | 180億立方メートル | 190億立法メートル | |
目標 | カーボンピークアウトに向けての基盤づくり | CO2排出量が安定して下降に向かう | カーボンニュートラルの実現 |
2.2030年までのカーボンピークアウトに向けた行動方案
分野 | 目標 |
エネルギー分野 | 2030年までに風力・太陽光の設備容量12億kW以上、揚水発電1.2kW。第14次、第15次、5か年計画それぞれで水力発電4000万kW。 |
工業分野 | 産業廃棄物リサイクルを奨励。2025年までに石油精製能力10億トン以下。 |
交通分野 | 2030年までに交通機関における新エネルギー・クリーンエネルギーの割合約40%。陸上輸送のカーボンピークアウト、民用航空は全面的に電動化。 |
資源リサイクル | 2025年までに大型廃棄物の利用量約40億トン。鉄・非鉄スクラップ、古紙、廃プラなどのリサイクル約4.5億トン。2030年にそれぞれ45億トン、5.1億トン。 |
発表された政策によると、2030年のピークアウト時には、CO2排出量を65%削減するとしています。またそこに至るまでの基盤づくりが重要だとされ、2025年の中間目標が設定されました。具体的には、2020年比で18%のCO2削減、非化石エネルギー率20%、大型廃棄物リサイクル約40億トンなどです。
これらの目標は、それぞれ中国の政策「第14次五カ年計画(2025年)」「第15次五か年計画(2030年)」に織り込まれ、脱炭素のロードマップとして世界的に紹介されました。中国の2030年と2060年の目標は「3060」目標とも呼ばれ、中国国民全体に幅広く浸透し、着々とプロジェクトが進行しています。
参照:
カーボンニュートラルに向けた中国政府、企業の対応状況 – JETRO
「3060」目標 脱炭素に挑戦 – PEOPLE’S CHINA
中国市場の再生可能エネルギー技術の普及状況
中国市場で世界の関心が集まっているのが、中国の再生可能エネルギー(以下:再エネ)です。中国の目標では、2025年までに風力と太陽光発電の設備容量を12億kWに増やし、2030年までに4,000万kWの水力発電を建設する予定です。
中国が2022年に導入した再エネ設備は140GW以上、2023年6月には、再エネ総設備容量は13億kWを超え記録を更新しています。エネルギー設備容量全体で、再エネが占める比率は48.8%にいたっています。世界のグリーン・脱炭素系の特許件数でも、中国が全体の31.9%を占め、再エネ開発技術の高さを裏付けています。
中国の科学技術庁は、エネルギー貯蔵やCCUS(CO2の回収・貯留)など100種類のエネルギー・コア技術の実現をタスク化し、さらなる進展を策定中です。
参照:
中国は世界のグリーン・低炭素技術イノベーションの重要な貢献者 – 人民網
中国、再生可能エネルギー13億kW – AFP BB News
中国国内外の脱炭素関連の投資金額
中国のように、超越的な規模で脱炭素を実現していくには、当然ながら莫大な費用がかかります。2060年のカーボンニュートラルの達成には、150兆元~300兆元(約3,000兆円~6,000兆円)の投資が必要だといわれています。中国政府は、過度な財政負担を避けるため、民間企業と共同で出資するファンドを設立しました。
公式には中国の投資予算は未発表ですが、日本総研が報告した清科研究中心の調査では、2022年の政府系ファンドは2107種類、総額12.8兆元(約250兆円)でした。2023年7月には、大連市が技術イノベーションに向けて100億元(約1,900億円)のファンドを立ち上げています。
クリーンエネルギーへの投資シナリオ(2015年~2030年)
出典:World Energy Outlook 2022 – IEA
IEA(国際エネルギー機関)の見解では、世界のクリーンエネルギーへの投資額は2030年には年間2兆ドル(280兆円)規模になると見ています。中でも中国が単体で、全体の30%以上の巨額な投資額を打ち出していくとの予想です。
参照:
World Energy Outlook 2022 – IEA
中国が抱える脱炭素の課題
脱炭素で世界をリードする中国でもまだ目標達成には遠く、数々の課題を抱えています。次に、中国が抱える脱炭素の課題を3つの視点で見ていきます。
石炭火力発電が抱える温室効果ガス排出問題
まず課題の1つが、石炭火力発電によるCO2排出量です。石炭は最もCO2を排出する化石燃料の1つで、中国のCO2排出量の大半が石炭に起因しています。
中国の石炭火力発電の比率はかつて70%もあり、2000年代に入ってから石炭と自動車の排気ガスによって、深刻な大気汚染が発生していました。対策として新規電源開発計画が開始されたのが2014年のことです。石炭の利用を削減し、EVの導入が推進されていきました。そして、2年後の2016年パリ協定をきっかけに石炭の削減と再エネ導入が本格化しました。
工場や家庭では、石炭からガス・再エネへの移行が実施され、石炭利用に制限が設けられました。老朽化した発電所や小規模な発電所は閉鎖され、新規の石炭火力発電は規制されていきます。2017年に60%以下まで減少させることができたのでした。さらに、2020年には56.8%、2年後には43.8%と石炭火力は、その後、急ペースで低下していきます。
今後も、再エネへの移行から石炭火力の減少が予想されていますが、急激な石炭の制限は雇用や電力供給にひずみが生じるため、慎重な対策が練られていのです。
参照:
中国が2030年のCO2排出ピークアウトに向けて行動方針を発表 – 自然エネルギー財団
工業地帯の脱炭素化への課題
中国が抱える問題は工業地帯の脱炭素化です。2010年に、中国はGDPで日本を抜いて2位になって以来著しい経済成長を遂げ、1980年~2020年における1次エネルギーの消費量は8.3倍に倍増しています。それに伴いCO2排出量も6.7倍に増加しており、経済成長に比例してCO2も増えているわけです。
ここで、問題となるのが中国経済で大きな比重を占める、鉄鋼、石油化学、非鉄金属などの工業です。これらの業種では、大規模なエネルギー消費にて他業種の数倍のCO2を排出します。エネルギー量が多すぎることから、再エネへの移行も難しいのが現状です。河南省など主要工業地帯では、重度の大気汚染が進んだため、石炭から天然ガスへの移行が進められました。
しかし、天然ガスは輸入に依存する部分も多く、ガス不足による価格高騰などのリスクが避けられません。大規模なエネルギー需要に対しては、再エネだけではまだ補うことができず、石炭も含めた化石燃料が必要とされています。エネルギー効率化を図りながら、いかに再エネとのエネルギーミックスを実現するかが当面の課題です。
参照:カーボンニュートラルの実現を目指す中国 – 独立行政法人経済産業研究所
交通分野における課題
そして、中国の交通分野においても多くの課題が残されています。中国では50万円以下で購入可能な、小型EV「宏光mini(ひろみつ)」が、EVのコスト問題を解決し大盛況を収めました。「宏光mini」はTeslaのモデル3を抜いて売上ナンバーワンを記録し、中国はそれを契機に世界のEV市場のトップに躍り出ます。
しかしEVでは解決できない問題が、航空機、船舶、大型トラックなどの大型輸送機のCO2です。再エネなどの電気で賄える燃料には限界があります。普通自動車のサイズであれば対応可能でも大型になるほど難しくなり、化石燃料への依存が強くなってしまうのです。
中国は輸出大国でもあるため、大型輸送機に使用可能なバイオ燃料や水素・アンモニアの開発を急いでいます。いくつかの企業は実用化に向けて動き出しています。
参照:水素産業がサプライチェーンの構築に向けて進む – JETRO
中国企業の環境対策と取り組み
次に具体的な中国企業の取り組みを見ていきます。積極的な脱炭素が期待される中国では、ベンチャーから大手まで、幅広い業種の企業がバラエティに富んだ環境対策に取り組んでいます。
オンライン通販で有名なアリババは、ユーザーの脱炭素行為が植林につながるアプリを開発しました。車の代わりに徒歩にするなどでCO2削減を行うと、アプリでグリーンエネルギー(売買可能)が発行されます。貯まったエネルギーは、アリババグループの管理のもとで植林プロジェクトに寄付され、すでに1億本の植林が実現しているのです。
また、ごみ処理・排水処理を行う中国光大環境(チャイナ・エバーブライトエンバイロンメント)は、食品廃棄物から得られるガスや熱を利用したバイオマス発電で事業を拡大中です。
日本企業が中国で推進する低炭素技術開発
中国企業だけでなく、日本企業も中国の脱炭素で活躍しています。数多くの日本企業が中国で脱炭素技術を推進しています。
エネルギーインフラや資源循環テクノロジーの日揮HDは、廃プラスチックやポリエステルのリサイクル、CCUなど新たな分野で技術開発を進めています。日揮は、化学関連の中国企業と小売り大手の丸紅との提携で、低炭素型メタノールの製造に着手しました。工場から排出される石灰・CO2・水素を使った資源循環型で、中国と日本に貢献します。
参照:丸紅と日揮、化学工場の「副生水素」を活用 – 環境ビジネス
中国政府と日本企業の環境保護への取り組み
1993年より、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と中国政府は、持続可能な社会活動・環境保護の一環として中国政府と日本企業をマッチングするモデル事業を展開しています。これまでに行われた事業には、水素開発、水素ステーションの建設などがあり、ENEOSや東芝などが過去に参加しています。
参照:
米中の脱炭素政策と取り組みの比較
脱炭素では中国に遅れをとってしまった米国ですが、米国でも大規模な脱炭素政策が相次いで実施されています。ここでは、脱炭素政策と取り組みの違いを米中で比較してみました。
日米の脱炭素比較
米国 | 中国 | |
カーボンニュートラルの目標 | 2030年-50 ~ -52%(2005年比) 2050年ネットゼロ | 2030年カーボンピークアウト 2060年ネットゼロ |
政策 | インフレ雇用法インフラ投資雇用法 | 13次5カ年計画14次5カ年計画 |
法律化 | インフラ投資雇用法の枠組みとして脱炭素投資が行われている | 法律化はされていない4つの分野別に行動指針を表明 |
投資金額 | グリーンインフラ投資に約2兆ドル(約280兆円) | 未発表(数千兆円だといわれている) |
他国との提携/支援 | FMC(日本、欧州)グローバルに支援 | 一帯一路グリーン発展国際連盟 |
再エネ導入 | 2035年・太陽光発電比率40%見込み・風力20% 2050年・風力35% | 2030年・非化石エネルギー消費25%・風力と太陽光で1,200GW 2050年 ・非化石エネルギー消費80% |
EV普及率/販売台数 | 2030年・EV比率50% | 2025年・EV販売210万台2035年・EV50%、省エネ車50% |
CCUS | 2050年までに完全SAF | 未発表 |
両者の政策や取り組みを比べた時には、中国は米国よりも若干控えめでも、双方とも積極的に取り組んでいることがわかります。ただ、実績で見ると、中国はすでにEV販売において2025年の目標を達成、2030年のカカーボンピークアウトも達成している点で、現実的な政策で着実に目標に向かっていると見れるかもしれません。
IEA(国際エネルギー機関)の分析によると、2050年の時点で目標に一番近づくのは中国で、約80%の再エネ比率になると予想しています。
※SAF(サフ)とは、持続可能な燃料のことで、バイオマスや廃油・廃棄物などから製造される燃料のことです。
参照:
中国脱炭素の展望
最後に中国脱炭素の今後の展望として、中国の電池技術と水素技術を紹介しましょう。
EVの普及拡大にともなって、さらに中国経済は飛躍的に成長すると言われています。その理由は、リチウムイオン、ニッケル、コバルトなどバッテリーに必要な資源や製造技術の70%を中国が占めているからです。
そして水素技術においても、中国は他国を大きく引き離してトップの座にあります。年間の水素需要は現時点で3300万トン、世界総需要の約3割にあたる規模です。中国国有企業のシノペックは、2022年にCO2ゼロのグリーン水素プロジェクトに着手、年間2万トンを生産します。中国国内1,000カ所に水素ステーションを建設する予定です。
市場では、中国が水素エネルギーにおいても、世界をリードするビジネスモデルになると考えられています。
参照:
Global Supply Chains of EV Batteries – IEA
シノペック、初のグリーン水素事業を2022年に開始 – REUTERS
まとめ
2021年以降、猛烈なスピードで中国の脱炭素は加速してきました。著しい経済成長の過程にある中国にとって、脱炭素の実現は地球温暖化への責任だけでなく、新経済大国としての挑戦でもあります。気が付けば、すでにドイツや日本を追い抜いてしまった中国は、確かに先進国にとっては脅威と成り得るかもしれません。
しかし、脱炭素は国家単位ではなく、地球規模で取り組むべき課題です。各国が主義や思想を超え協力し合って初めて実現可能となります。世界が1つなってカーボンニュートラルに向かう時、中国の脱炭素技術から得られるものは、思った以上に大きいのではないでしょうか。