2050年にカーボンニュートラルが実現し、供給されるエネルギーが全て再生可能エネルギーに置き換わると、エネルギー供給量は現在の3分の1になるとも試算されています。

そうすると、社会が真に必要とする事業とそうでない事業の選別がはじまっていくことになります。本記事では、事業の発展的な整理としての断捨離について、分かりやすく解説していきます。

世界のエネルギー量が1/3になれば取捨選択が必要

20世紀は大量生産、大量消費の時代であり、いくらでも化石燃料を使用し、それで得たエネルギーを大量に消費していました。

しかし、21世紀は脱炭素の時代であり、化石燃料の使用はいずれ終わりを迎えます。化石燃料に置き換わり、これからのエネルギー資源となるのは再生可能エネルギーですが、再生可能エネルギーの供給量の限界という課題が発生してきます。

再生可能エネルギーの供給可能量は、現在のエネルギー供給量の3分の1程度であるとの試算もされており、もし社会が使用できるエネルギー量が現在の3分の1になれば、世の中に存在するサービスや事業の3分の2は存続のリスクに陥ります。

企業体力があるうちに、事業変革を実施する

この事業の選別に備えて、企業が取り組むべき事は、自社の事業を改めて見直し、伸ばすべき事業と、そうでない事業を明らかにすることです。

思い切った事業の見直しや変革を行うには、1日でも早く企業の体力があるうちに取り組むべきです。今は需要があるからといって事業変革に着手していなければ、本当に社会から選ばれなくなった時に「次の事業が育っていない」という最悪の結果を迎えてしまいます。

化石燃料使用ありきの事業はもちろんのこと、エネルギー消費量が大きく生み出す事業価値が小さい事業は、長期的な目線で考え、積極的な整理をしていくことが大切です。

2050年以降の持続的な事業存続のためには、必要な取り組みといえるのです。

具体的な事例

2050年のカーボンニュートラルを前提とした、事業の見直しや変革は、すでにあらゆる業界で取り組まれています。ここでは、いくつか具体的な事例をご紹介していきます。

セイコーエプソン

プリンター大手のセイコーエプソンは、脱炭素への取り組みとして2026年を目標に、レーザープリンターの販売を26年に終了することを明らかにしています。

レーザープリンターは予熱が必要となることに加えて、トナーを紙に定着させるために熱を使用します。インクジェットプリンターと比較し、消費電力が多くかかり、脱炭素の取り組みを考えた際に、見直すべき事業と判断されたと予想されます。

三菱ケミカルグループ

三菱ケミカルグループは、23年度の石化・炭素事業のカーブアウトを打ち出したことが注目を集めました。

カーブアウトとは、会社分割の形態の1つで、親会社が戦略的に子会社や自社の事業の一部を切り離すことを指します。グループ売上高の4分の1を占める石化・炭素事業でさえ、カーボンニュートラルを前提とした市場の成長性や収益性を踏まえると、思い切った切り離しにも着手せざるを得ないという判断になるひとつの例と言えます。

問題を先送りせず様々な視点を持つ人材確保へ

このような思い切った事業の見直しや変革には、これまでの社内の常識や成功体験に縛られない、新しい発想が必要になります。新しい発想にはダイバーシティが必要であり、様々な視点やルーツを持つ人材の確保が大切です。

これからやってくる社会の変化や脱炭素化の波は、歴史的な事業構造や社会の転換点です。我慢していれば過ぎ去るものでは決してなく、問題を先送りしていても状況はいつまでも改善しません。

カーボンニュートラルを前提とした世界で、勝てない事業の戦略的・発展的な整理・見直しは、2050年に向けた脱炭素経営成功のために、重要な意思決定となるのです。

まとめ

ここまで、脱炭素経営における事業の発展的な整理・断捨離について紹介してきました。

事業の断捨離や撤退というと、どうしてもネガティブな印象を持たれがちですが、戦略的な事業の見直しや変革は、長期的な視点で見た際に、企業価値の向上に繋がる重要な意思決定であることを忘れてはいけません。

著者のプロフィール

福元 惇二
福元 惇二
タンソーマンプロジェクト発起人であり、タンソチェック開発を行うmedidas株式会社の代表。タンソーマンメディアでは、総編集長を務め、記事も執筆を行う。