再生可能エネルギーは持続可能な未来を築くために重要ですが、その普及を促進するためにさまざまな制度が存在しています。本記事では、再生可能エネルギーの導入において鍵となる「RPS制度」と「FIT制度」に焦点を当て、その違いを解説します。

CO2を排出しない再生可能エネルギーの導入量を増やすことは、環境のためにも、またエネルギー自給率向上のためにも重要なことです。しかし、再生可能エネルギーの弱点である発電コスト、その課題克服のために世界では、また日本ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。

また、その取り組みはどのような成果を上げているのでしょうか。「2050年カーボンニュートラル」実現のため、再エネが主力電源となるよう政府は明確に示しました。このような流れの中、複雑そうな制度の理解を深めることは、次なるステップへとつながります。

再生可能エネルギーの普及背景について

「グリーントランスフォーメーション」という温室効果ガスの排出削のため、経済社会システム全体を変革させる閣議決定が2023年2月10日にされました。これは、今後10年を見据えた政策の方針で、化石エネルギー中心の社会を、クリーンエネルギー中心のものへと方向転換させるエネルギー政策です。

日本における再エネの導入拡大に向けた取り組みは、1980年の石油代替エネルギー法から始まりました。2003年には再エネの導入を促進するためにRPS制度が施行され、2012年にFIT制度に置き換えられました。さらに、2022年には市場価格を踏まえたFIP制度も導入されています。

これらの制度の対象になる再エネには、太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスの5種類があります。それでは、カーボンニュートラルに向けて、変遷していった代表的な再エネ導入制度について見ていきましょう。

RPS制度について

RPS制度(Renewables Portfolio Standard:再生可能エネルギー導入基準)とは、電力会社に対して一定割合の再エネ導入を義務付ける制度です。化石燃料への依存率を減らし、国産のエネルギー資源となる再エネの普及を促進するため、日本では2003年にこの制度が始まりました。

制度が導入された背景として、長らく化石燃料に依存していた日本は、エネルギー自給率の向上という課題を持っていました。一方、欧米では以前からRPS制度が導入されており、日本でも導入を目指して2000年頃から議論されていました。

RPS制度では、国が電力供給における再エネの割合目標を設定します。この目標数値は特定の期間ごとに段階的に増加します。制度導入後、この目標値は達成されていましたが、2008年度でも電力総供給量の1%に過ぎず、さらなる再エネ普及のため2012年にFIT制度に置き換えられました。

電力会社は定められた目標値を達成するため、以下の3つの手法から効果的なものを選び、また、組み合わせることができます。

再エネ発電をする

・他から再エネ発電で作られた電力を購入する

・他からクレジット(Tradable Green Certificates:グリーン証書)を購入する

  

再エネには5種類の対象エネルギー源があり、それらは太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスになります。そしてこのエネルギーを利用した発電が再エネ発電になります。

RPS制度の特徴として、「クレジット」があります。これはグリーン証書とも呼ばれ、再エネ資源から得た電力に対して発行され、取引が可能です。定められた目標値を達成するために、電力会社が再エネ発電事業者から購入することができます。

RPS制度の海外事例

RPS制度の原形は1990年代にアメリカで始まり、早くから欧州でも実施されていました。特にアメリカは連邦制であり、独自のエネルギー政策を策定できます。各州が異なる再生可能エネルギー資源を活用できるため、柔軟に目標値が設定できるRPS制度が適しています。

アメリカの中でもRPS制度を牽引しているのはカリフォルニア州です。2002年にRPS制度を導入し、再エネの導入目標を設定しました。その後、目標を段階的に引き上げ、現在は2045年までに100%の再生可能エネルギーの達成を目指しています。

また、再エネ発電の普及に貢献しているのは、太陽光発電や大規模風力発電となっています。これは広大な国土に加え、風や日照などの点で立地条件に恵まれているからです。再エネの施策は州単位なので、FIT制度を導入している州もあります。

RPS制度におけるメリットとデメリット

RPS制度は割合目標値の達成という義務量を設定するため、確実に再エネが導入されます。そのため、まだ再エネ発電が進んでいなかった2000年初めには、再エネ導入のきっかけとなりました。

RPS制度のメリットには、市場原理に従って効率の良い再エネ発電が導入されることがあげられます。というのも、より低コストで発電できる技術や設備が市場で評価されるためです。電力会社は、義務量達成のため、収益性の高い技術を進めることになります。

また、電力会社に数量目標が課せられるので、再エネ導入の確実性を高めます。そして電力会社はいくつかの目標達成手段を選択できるため、柔軟性があります。これにより、社会全体の導入コストが低くなります。

RPS制度のデメリットには、成熟した技術開発しか進まない点が挙げられます。市場機能に左右される制度なので、将来的な事業の見通しが立たない技術は後回しにされてしまいます。特に大規模な再エネシステムはリスクの算出が難しいため、新規の参入が阻害される傾向にあります。

割合目標値設定の難しさも大きな課題となります。再エネ価格は予測するのが難しいため、割合目標量が低く設定されがちです。かつ、大手電力会社に配慮した設定になることもあります。これはRPS制度の本来の目的である再エネの普及が進まない事態につながります。

FIT制度について

FIT制度(Feed-in Tariff:固定価格買取制度)とは、再エネ資源を用いて発電された電気を、国が定める価格で電気事業者が買い取ることを義務付ける制度です。RPS制度に代わるものとして2012年に施行されました。さらに2022年度から市場連動型のFIP制度が導入され、現在はFIT制度と併存しています。

RPS制度の導入は再エネの導入を進めました。技術の進化により、発電コストが年々低下するという成果も上げていました。しかしその量は期待していたほどではなく、より高い普及効果が見込まれるFIT制度へと移行しました。その後、再エネの導入は急速に加速しました。

FIT制度では、電力会社が再エネ発電の価格を固定し買い取ることで、発電事業者に収益の安定性を保障します。これにより、多くの事業者が投資しやすくなり、再エネ発電所の建設が促進されました。その結果、再エネの導入が進み、2050年カーボンニュートラルの実現に近づいています。

この制度の対象になる再エネはRPS制度と同じく、太陽光・風力・水力・地熱・バイオマスの5種類になります。中でも太陽光は参加障壁が低く、メガソーラーと呼ばれる大規模な発電所も出てきています。

FIT制度の海外事例

ヨーロッパではFIT制度の導入が進んでいます。固定価格よりも先が読める点がその理由とされています。特にドイツは、再エネ普及を推進してきたパイオニア的な国の1つです。2000年に再生可能エネルギー法(EEG)が制定され、2050年よりも5年前倒しした2045年のカーボンニュートラル達成を目標にしています。

ドイツではFIT制度が導入された当初から、太陽光発電や風力発電などの再エネ技術が成熟していました。このことから、FIT制度が市場に導入されやすい状況にあり、多くの再エネプロジェクトが実現し、エネルギー転換が急速に進みました。

さらに2023年に発行したイースターパッケージは、先の再生可能エネルギー法(EEG)を改正、一部新設し、さらなる再エネ拡大を狙っています。また、「10年以内に総電力消費量に占める自然エネルギーの割合をほぼ倍増し、自然エネルギーの拡大スピードを3倍にする」という野心的な目標をかかげています。

FIT制度におけるメリットとデメリット

FIT制度は固定価格により電気事業者の収益安定を提供し、設備や技術の投資を促進します。一方で、設定された固定価格は再エネ賦課金として電気料金に上乗せされ、電力消費者の負担となっています。

事業者の収益安定により再エネの普及が拡大したことは、FIT制度導入の大きなメリットです。買取価格が定められているため回収できる資金が予測し易く、再エネ事業をリスクが少ない魅力的な投資先に変化させました。その結果、新規参入と技術革新が大きく進むことになりました。

もう一つのメリットとして、多様な技術革新が進むことが挙げられます。長期にわたって価格が保障されるため、短期に資金回収をする必要がなくなり、長期的な視点での事業を可能とします。地熱やバイオマスなどの投資資金回収まで時間がかかる再エネの開発も進むこととなりました。

再エネ発電が進んだ一方で、電気料金の上昇という課題があります。再エネ発電の買取価格の一部は再エネ賦課金として電気料金に上乗せされています。再エネ事業者の増加に伴い、再エネ賦課金の国民負担も同じく増加しています。

太陽光発電への偏重も問題視されています。参入障壁が低いため、小規模の事業者でもFIT制度を利用した導入が可能で、その数は急激に伸びました。しかし太陽光発電は天候に左右され、送配電系統の電圧が不安定になり、その対策に費用がかかります。変電所などのインフラ整備が必要となるという新たな課題が発生することとなりました。

RPS制度とFIT制度の違い

RPS制度とFIT制度は、どちらも再生可能エネルギーの導入を促進するための制度ですが、それぞれ異なるアプローチと特徴を持っています。2つの制度の大きな違いは、数量でコントロールするか、価格でコントロールするかになります。それでは、RPS制度とFIT制度の主な違いをみてみましょう。

アプローチの違い

RPS制度

目的は電力供給における再エネの割合を達成させることです。電力会社に対して再エネの割合目標値を達成するよう義務付け、その結果、再エネ導入量を増やすことを重視しています。

FIT制度

再エネ電力を固定価格で長期にわたって買い取ることで、発電事業者に安定した収益を保証します。そのため、リスクの少ない投資先となり参入業者が増え、技術革新も進みます。

価格設定の違い

RPS制度

電力会社は再エネの目標値を達成するためにクレジットを購入しますが、その価格は需要と供給によります。市場の競争原理に基づくため、価格が変動しやすくなります。

FIT制度

電力会社は固定価格で再エネの発電事業者から購入します。しかし、事業効率が改善された時などに適正価格や利潤の見直しがおこなわれるので、買取価格が変化することもあります。

RPS制度とFIT制度の導入後の再エネ発電量の変化

2016年度までのデータになりますが、資源エネルギー庁のサイトにわかりやすい表があるので下に参照します。2003年にRPS制度が施行され、再エネの重要さが徐々に浸透しました。その後2009年の太陽光発電の余剰電力買取制度が始まり、太陽光発電量の伸び率がアップしました。

大きく状況が変わったのが2012年のFIT制度の施行です。下図でもわかるように年の平均伸び率が急激に上昇しています。これはFIT制度が再エネの普及に適切だったこともありますが、それまでのRPS制度で再エネ導入の下地が作られていたことも考慮すべきです。

図表データ対象年

2003年 ~ 2016年

参照:資源エネルギー庁「第1節 2030年のエネルギーミックスの進捗と課題」

まとめ

再生可能エネルギーの導入において、RPS制度とFIT制度は異なるアプローチを提供しますが、どちらも持続可能な未来に向けた重要な制度です。国や地域の状況に応じて、適切な制度は違います。政策は複雑で常に変化しますが、年々再エネのコストも低減し成果が見え始めています。これからも再エネの普及が待望されます。

著者のプロフィール

福元 惇二
福元 惇二
タンソーマンプロジェクト発起人であり、タンソチェック開発を行うmedidas株式会社の代表。タンソーマンメディアでは、総編集長を務め、記事も執筆を行う。