日本は2020年10月に、2050年までに、「カーボンニュートラル」を目指すと宣言しました。カーボンニュートラルとは、温室効果ガスの排出量、特に二酸化炭素の排出を抑える取り組みのことです。その実現には、自然の力を借りた再生可能エネルギーが非常に重要な役割を果たすと考えられています。再生可能エネルギーは、太陽や風といった自然の力を利用して電力を作り出すため、化石燃料とは違い、二酸化炭素を排出しないのです。
しかし日本では、再生可能エネルギーの利用は、あまり普及していません。再生可能エネルギーを普及させるには何が必要なのでしょうか。そこで本記事では、再生可能エネルギーに関する日本の現状と、再生可能エネルギーを普及させるにはどのような解決策があるのかを解説していきます。再生可能エネルギー導入の参考にしていただければ幸いです。
再生可能エネルギーとは?
再生可能エネルギーとは、自然から無限に得られるエネルギー源のことを指します。例えば、太陽光、風力、地熱、水力、バイオマスといった種類があります。
太陽光
太陽光とは、太陽からの光です。この太陽光を利用したものが、太陽光発電です。太陽光発電は、太陽からのエネルギーを電気に変えます。この方法は、風力発電や水力発電と比べて導入が簡単で、個人や中小企業でも取り入れやすいです。
風力
風力とは、地上や洋上に吹いている風の力です。この風を利用したものを風力発電と呼びます。風力発電は、風の力を利用して電力を生成します。昼夜を問わずにエネルギーを生み出すことができ、風車を陸上あるいは海上に設置します。
地熱
地熱とは、地下に眠る熱源、つまり、マグマのことです。このマグマを利用したものが、地熱発電です。地熱発電は、マグマの熱を利用して電気を作ります。雨水が地下深くでマグマによって蒸気に変えられ、その蒸気が発電機にあるタービンを回すことで発電を行います。日本は、世界有数の火山国であるため、地熱発電が進んでいます。
水力
水力は、流れる水の速さによって生み出される力を意味しています。この力を利用したものが、水力発電です。水力発電は、高いところから低いところへ水を流すことで、大きなエネルギーを生み出し、それを発電機に送り込むことで電力を作り出します。かつてはダムが主に使われていましたが、今では川や農業用水、さらには下水も使われるようになりました。
バイオマス
バイオマスとは、バイオ(bio)とマス(mass)を合わせて作られた言葉です。バイオは「生物」、マスは「かたまり」を意味しています。つまり、生物のかたまりを利用してエネルギーを生み出すのです。これをバイオマス発電と呼びます。
バイオマス発電は、家畜の糞尿や木材、稲わら、トウモロコシなどを燃やして発電します。これらの原料は成長する過程で二酸化炭素を吸収するため、バイオマス発電の二酸化炭素排出量は実質ゼロとされています。
再生可能エネルギーは、化石燃料のように燃焼することで二酸化炭素を排出しません。そのため、環境にやさしいエネルギー供給手段として注目を集めています。
再生可能エネルギーは、環境にやさしい以外にもメリットが複数あります。こちらの記事で再生可能エネルギーのメリットについて詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
関連記事はこちら:再生可能エネルギーのメリット・デメリットとは?分かりやすく解説
日本における再生可能エネルギーの現状
日本における再生可能エネルギーの現状は、一体どのようになっているのでしょうか。環境エネルギー政策研究所のデータによると、日本の再生可能エネルギーの割合は電力消費全体に対して22.7%です(2022年度)。細かく見ていくと、太陽光発電が9.9%、風力発電が0.9%、地熱発電が0.3%、水力発電7.1%、バイオマス発電4.6%です。
日本の再生可能エネルギーの割合である22.7%は、決して高い数値ではありません。こちらの表をご覧ください。
電力消費に対する17カ国の再生可能エネルギーの割合(2022年度)
太陽光 | 風力 | 地熱 | 水力 | バイオマス | 合計 | |
---|---|---|---|---|---|---|
ブラジル | 4% | 13% | 0% | 66% | 8% | 91% |
スウェーデン | 2% | 23% | 0% | 52% | 9% | 86% |
デンマーク | 6% | 55% | 0% | 0% | 20% | 81% |
カナダ | 1% | 6% | 0% | 67% | 2% | 76% |
チリ | 17% | 11% | 0% | 27% | 7% | 56% |
ポルトガル | 6% | 23% | 0% | 15% | 7% | 51% |
ドイツ | 11% | 24% | 0% | 4% | 9% | 48% |
スペイン | 12% | 23% | 0% | 8% | 3% | 46% |
イギリス | 5% | 26% | 0% | 2% | 11% | 44% |
アイルランド | 0% | 35% | 0% | 3% | 3% | 41% |
オーストラリア | 15% | 12% | 0% | 7% | 1% | 35% |
イタリア | 8% | 6% | 3% | 9% | 6% | 32% |
中国 | 5% | 9% | 0% | 15% | 2% | 31% |
フランス | 4% | 8% | 0% | 2% | 11% | 25% |
インド | 6% | 5% | 0% | 1% | 11% | 23% |
アメリカ | 4% | 10% | 1% | 1% | 6% | 22% |
韓国 | 5% | 1% | 0% | 1% | 2% | 9% |
再生可能エネルギーの利用割合において、日本の22.7%は決して高いとは言えません。実際、17カ国のデータを見てみると、日本よりも高い割合で再生可能エネルギーを利用している国が15カ国も存在します。特に、ブラジルは再生可能エネルギーの割合が91%と非常に高いです。スウェーデンでは86%、デンマークでは81%といずれも高い割合です。
再生可能エネルギーを普及させる解決策は?
外国との比較により、日本では、再生可能エネルギーがあまり普及していないことが明らかとなりました。日本で再生可能エネルギーを普及させる解決策には、どのようなものがあるのでしょうか。主に、下記の3つが解決策として考えられます。
- コストの削減
- 安定した電力供給
- 再生可能エネルギーに対応した電力系統の整備
それぞれ解説します。
コストの削減
再生可能エネルギーの普及させるには、コストの削減が何よりも欠かせません。再生可能エネルギー設備に対する投資コストや発電コストが、化石燃料を利用したものに比べてかなり高額だからです。日本では、太陽光パネルや風力発電機の購入費用が海外と比較して約1.5倍、設置工事費も約1.5から2倍と高いと報告されています。
参照:資源エネルギー庁がお答えします!~再エネについてよくある3つの質問
さらに下記の表からは、化石燃料の発電コストが最大で1kWhあたり12.5円なのに対し、再生可能エネルギーは最大で1kWhあたり30.0円もかかることが分かります。
発電の種類 | コスト |
---|---|
火力発電(石炭) | 12.5円/kWh |
火力発電(天然ガス) | 10.7円/kWh |
太陽光発電(在宅) | 17.7円/kWh |
太陽光発電(事業用) | 12.9円/kWh |
風力発電(洋上) | 30.0円/kWh |
風力発電(陸上) | 19.8円/kWh |
地熱発電 | 16.7円/kWh |
小水力発電 | 25.3円/kWh |
中水力発電 | 10.9円/kWh |
バイオマス発電(専焼) | 29.8円/kWh |
しかし、どのようにコストの削減を行えばいいのでしょうか。現在、コスト削減に向けて進められているのが、再生可能エネルギーの入札制度の導入、補助金の活用です。
再生可能エネルギーの入札制度の導入
再生可能エネルギーの入札制度とは、政府があらかじめ設定した総発電容量(募集容量)に対して、各事業者が提供できる発電容量とその価格を提案するシステムです。そして、その価格が安い順(つまり発電コストが低い順)に、政府が発電容量を購入します。この価格が、「FIT価格」となります。「FIT」とは、「Feed in Tariff」の略で、再生可能エネルギーを固定価格で買い取る制度のことです。
つまり、この入札制度は再生可能エネルギーの事業者に対して、発電コストを可能な限り低く抑えるように競争を促す仕組みなのです。これにより、全体としての太陽光発電のコストを下げることを目指しています。このように下がったコストを基準とする方法を「トップランナー方式」と言います。
続いて、太陽光発電の入札制度を例に具体的な数値などを確認していきましょう。2023年度に入札が実施されるのは合計で4回で、政府の募集容量は105MWです。入札ができるのは、「FIP対象区分のうち出力が500kW以上の発電設備」か、「FIT対象区分のうち出力が250kW以上500kW未満の発電設備」を持つ企業です。
FIP対象区分のうち出力が500kW以上の発電設備とは、一度に最低でも家庭用エアコン約500台分の電力を生成できる発電設備を指します。この規模の発電設備は、大きな工場や商業施設、あるいは小規模な地域コミュニティ全体の電力を供給することが可能です。
一方、 FIT対象区分のうち出力が250kW以上500kW未満の発電設備とは、一度に家庭用エアコン約250台分から500台分未満の電力を生成できる発電設備を指します。この規模の発電設備は、中規模のビジネス施設やマンション、公共施設などの電力供給ができます。
補助金の活用
補助金の活用によって、再生可能エネルギー導入のコストを削減することができます。補助金にはさまざまな種類がありますが、代表的なものは「ストレージパリティの達成に向けた太陽光発電設備等の価格低減促進事業(経済産業省連携事業)」です。この補助金は、太陽光発電や蓄電池の導入を支援するためのものです。令和5年度は、4億2,600万円と大きな予算を設定しています。
紹介した補助金の詳細や他の補助金については、こちらの記事で解説しています。ぜひ、ご覧ください。
関連記事はこちら:2023年度 脱炭素化の補助金は?一覧で解説
関連記事はこちら:【2023年】令和5年CO2削減・脱炭素の補助金一覧を紹介
安定した電力供給
再生可能エネルギーは、安定した電力供給ができません。なぜなら、日照時間や風の強さなど、自然の条件によって発電量が変わるからです。この発電量の不安定さが、一部の企業が再生可能エネルギーの導入をためらう理由となっています。
例えば、日本とチリを比較してみましょう。太陽光発電は、日照時間が長いほど多くの電力を発生できます。日本の年間日照時間は約1,916時間なのに対し、太陽光発電の使用率が日本の倍近くあるチリでは約3,926時間と、日照時間が約2倍あります。単純に比較すると、チリは、太陽光発電によって日本の2倍の電力供給を行うことができるのです。
とはいえ、そんな再生可能エネルギーの不安定さを補う解決策があります。それが、蓄電池の利用です。蓄電池は電力を貯めておき、必要なときに使うことができます。再生可能エネルギーで十分な発電ができなかったときに、蓄電池に貯めておいた電力を使うことで、安定した電力供給が可能となります。
再生可能エネルギーに対応した電力系統の整備
再生可能エネルギーを普及させるには、再生可能エネルギーに対応した電力系統(発電から送電までを統括する設備)の整備が重要です。既存の電力系統は、再生可能エネルギーに対応できるよう設計されていない場合が多いため、再生可能エネルギーの導入を遅らせています。
この問題を解決するための新たなアプローチとして、「日本版コネクト&マネージ」が考えられています。このアプローチでは、既存の電力網の未使用部分を最大限に活用し、再生可能エネルギーの導入を促進します。具体的には、電力網の空き容量を柔軟に活用し、電力供給を増やすことを目指します。
これが上手く機能すると、新たに電力系統を増設する必要がなくなるため、再生可能エネルギー導入にかかるコストを大きく削減できます。さらに、既存の電力系統で再生可能エネルギーが利用できるようになるので、再生可能エネルギーが急速に普及する可能性があります。
参照:日本版コネクト&マネージにおけるノンファーム型接続の取組
まとめ
再生可能エネルギーの普及には、コストの削減、電力の安定供給、そしてそのための電力系統の整備が重要です。それらの課題を解決するために、日本はさまざまな取り組みを行っています。
例えば、電力のコスト削減を目指し、低価格で電力を供給できる企業から優先的に購入する入札制度を実施しています。また、電力供給の安定化のために、蓄電池の開発にも力を入れています。さらに、再生可能エネルギーの取り込みに対応できるよう既存の電力系統を活用する「日本版コネクト&マネージ」の導入に取り組んでいます。
この取り組みの背景には、二酸化炭素の排出量を削減し、私たちの地球を守りたいという大きな目標があります。この目標を実現させるためには、大企業だけではなく中小企業の協力も求められています。あなたの会社でも、環境に優しい脱炭素社会への一歩を踏み出してみませんか。最初のステップとして、自社の二酸化炭素排出量を調べてみることをおすすめします。下記リンクから、排出量の計算が可能です。無料で使用できますので、ぜひ一度お試しください。
参照:タンソチェック【公式】 – CO2排出量測定削減サービス
著者のプロフィール
- 小学校教員として、カーボンニュートラルや脱炭素に関する授業を行った経験がある。子どもたちが理解できるように、専門用語を分かりやすく、かみ砕いて説明することを心がけた。この経験を活かし、脱炭素化の重要性を広く伝えるために、誰にとっても理解しやすい記事を作成している。