LGBTQは、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、そしてクエスチョニング(自身の性的指向や性同一性を模索中の人々)を示す言葉として使われています。近年、LGBTQの権利や生きづらさを考える動きが世界的に広がっており、国や地域、企業がどのようにこの問題に取り組んでいるのかについての関心も高まっています。

一方で、持続可能な開発目標、通称SDGsでも、すべての人々が平等に暮らせる未来を目指しています。そのため「SDGsの問題は、LGBTQの問題にも結びつくのか?」という疑問を抱く方も多いはずです。

そこで今回の記事では、SDGsとLGBTQの関係性を分かりやすく解説します。そして、日本でのLGBTQに関する取り組みや、企業が実施しているLGBTQへの配慮についても紹介します。

本記事を通じて、LGBTQのためにどのような取り組みが行われているのか、企業はこれからどう行動すべきなのかなど、様々な視点からSDGsとLGBTQの関係性を理解できます。ぜひ最後までお読みください。

SDGsとLGBTの関係性はあるのか?

SDGsは、地球上の課題を解決するために国際的に掲げられた17の目標です。これらの目標は、貧困や飢餓をなくすことから、環境の保護や平和な社会の実現まで、多岐にわたります。その中でも、特に「ジェンダー平等」を促進する5番目の目標は、LGBTQとの関連が深いと言えます。

ジェンダー平等の実現は、男性や女性だけの問題ではありません。LGBTQを含むすべての人が、社会で平等に扱われるべきなのです。そのため、ジェンダー平等を達成するためには、LGBTQの人々に対する理解や支援が必要になります。

現在、多くのLGBTQの人々が様々な国や地域で差別や偏見を受けています。この状況は彼らが十分な教育を受けたり、良い仕事を得たり、健康的な生活を送る機会を奪うかもしれません。

SDGsの4番目の目標は「質の高い教育をみんなに」です。つまり、LGBTQの人々の権利や幸福を守り、向上させることは、SDGsのジェンダー平等以外の目標達成にもつながるというわけです。

日本のLGBTQの取り組み

ここからは、日本の文部科学省と東京都が行っているLGBTQの取り組みを紹介します。

文部科学省

文部科学省は、LGBTQに悩む子どもたちを守るために様々な対策を行っています。近年、性同一性障害や性的指向・性自認に関する悩みや誤解、それが原因のいじめ問題が深刻化しているためです。

その対策として、文部科学省は平成29年に「いじめの防止等のための基本的な方針」を改定しました。改訂の目的は、教職員の性的マイノリティに関する認識や理解を深めることです。

性的マイノリティの児童生徒が持つ悩みや不安は、他の児童生徒とは異なる特有のものがあります。教職員はその特有の悩みや不安を正しく理解し、適切な対応をすることが求められているからです。

さらに、児童生徒や保護者との連携を深め、学校全体で支援体制を築く努力しています。例えば、性自認に基づく制服着用の許可や、職員や多目的トイレの使用、水泳授業の特別な配慮など、日常生活の様々な場面におけるサポートを行っています。

これらの取り組みを通じて、文部科学省は性的マイノリティ(性的少数者)の児童生徒が安心して学校生活を送れる環境の実現を目指しています。

参照:生徒指導提要 p.266-270

東京都

東京都は、2019年に「東京都性自認及び性的指向に関する基本計画」を策定しました。この計画のねらいは、誰もが共に支え合う共生社会の実現です。計画期間は2023年3月まででしたが、この計画の第二弾が実施され、2028年まで共生社会の実現に向けた取り組みが行われることになりました。

東京都は、国内外の状況やオリンピック・パラリンピックの動向、都内での性自認・性的指向の調査結果などをもとに、LGBTQの人々が直面する問題を認識しています。LGBTQの人々は、周囲の無関心や偏見、無理解などで悩みや不安を感じています。この状況を改善するために、東京都では次の3つの基本方針を定めました。

性的マイノリティの当事者に寄り添うこと

多様な性についての理解を深めるための啓発や教育を進めること

共生社会「インクルーシブシティ東京」の実現を目指すこと

計画の具体的な取り組みとしては、専門の相談窓口の開設や、LGBTQで悩みを抱える人たちが交流できる機会の提供などがあります。さらに、都民向けの啓発活動や教育プログラムの実施、企業向けの研修なども取り組みの一環として進められています。

また、行政サービスにおいても、LGBTQの配慮が行われています。例えば、性別を記載する欄の廃止や、病院で患者を呼び出す際の配慮などが実施されています。

参照:第2期東京都性自認及び性的指向に関する基本計画について 

SDGsとLGBTQに対する企業の取り組み

ここからは、SDGsとLGBTQに対する企業の取り組みを見ていきましょう。今回紹介するのは、「三井住友銀行」と「パナソニック ホールディングス」の取り組みです。

三井住友銀行

三井住友銀行は、LGBTQの方々が働きやすい環境をつくるために、様々な取り組みを行っています。

まず、三井住友銀行は「人権尊重に関する声明」や「Diversity, Equity & Inclusionステートメント (多様性、平等、包含に関する声明」を発表しています。声明の目的は、従業員の性的指向や性自認に基づく不当な取り扱いやハラスメントの防止、採用や昇進で平等な扱いをすることです。さらに2017年には、就業規則に「同棲パートナー登録」を導入しました。これによって、以前は対象とならなかった同性のパートナーや家族が福利厚生の対象となりました。

それに加えて、三井住友銀行では定期的にLGBTQに関する研修や勉強会を開催しています。特に興味深いのは、「PRIDEプロジェクト」です。このプロジェクトは他の金融機関と共催されており、参加者が自身の周りにある多様な性・個性を楽しみながら学びを深められる取り組みが行われています。

ハラスメント対策として、従来のマニュアルに性的指向や性自認に関する内容を追加した新しいマニュアルを作成し、従業員に共有しています。さらに、従業員が気軽に相談できる窓口も社内外に設置しています。

顧客サービスにおいても、2020年からは同性のパートナーを対象とした住宅ローンの提供を開始しました。このような取り組みが評価され、2022年には「PRIDE指標2022」で最高評価のゴールドを4年連続で受賞しています。

参照:LGBTQ理解促進 : 三井住友銀行

パナソニック ホールディングス

パナソニックホールディングスは、一人ひとりの個性を大切にし、働く環境をよりよくするためにLGBTQの人々に対する理解を深める取り組みを行っています。例えば、会社のコンプライアンス行動基準に、性的指向や性自認への理解を明記したり、同性のパートナーも配偶者と同様に扱う人事制度を導入したりしています。

さらにLGBTQに関する相談窓口の設置や、LGBTQの基礎知識や適切な対応方法に関する研修の実施、LGBTQの理解を深めるための情報発信やイベント参加の呼びかけも行っています。また、社内には「パナソニック レインボーネットワーク」というコミュニティがあり、LGBTQの当事者やその支援者が交流する場を設けています。

外部での取り組みとして、2014年からは「work with Pride」という団体に参加しており、LGBTQの理解を深める活動を行っています。パナソニックはこの団体から、7年連続でPRIDE指標の最高評価を受けており、2021年にはLGBT平等法の制定を目指す署名キャンペーンにも賛同しました。

参照:一人ひとりへのサポート:LGBTQ – Diversity, Equity & Inclusion – サステナビリティ – パナソニック ホールディングス

これから企業が取り組むべきこと

LGBTQ問題への対策として、これから企業が取り組むべきことは2つあります。一つはLGBTQに関する教育や研修、もう一つは平等な福利厚生です。どちらの取り組みもLGBTQへの理解度が非常に高い、三井住友銀行やパナソニックホールディングスが行っている大切な取り組みです。

LGBTQに関する教育や研修

まずは、LGBTQに関する教育や研修を行いましょう。従業員の中には、そもそもLGBTQが何を指す言葉であるのかを知らない方もいると思われるからです。この教育や研修を通して、従業員がLGBTQの当事者が抱えている問題や悩み、不安などを理解できるようにしましょう。

従業員がLGBTQに関する基礎知識を身につけたことにより、LGBTQで悩みを抱えている従業員は自身が持つ性自認や問題を周囲に相談しやすくなります。そうすることで、当事者の働きやすさや満足度を高められます。

さらに、こうしたLGBTQへの取り組みは企業の信頼性や評価の向上につながります。顧客や取引先の間で、多様な価値観を尊重し合える企業というイメージが高まり、新たな取引先の獲得にも繋がるでしょう。

要するに、LGBTQに関する教育や研修は、従業員の幸福度や生産性を高めるだけでなく、企業全体の成長や評価の向上にも役立つのです。

平等な福利厚生

平等な福利厚生の実現は、すべての従業員が安心して働ける環境を作るためには欠かせない取り組みの一つです。従業員はそれぞれ異なる背景を持っており、LGBTQの当事者も多くいます。

しかし、福利厚生がLGBTQの当事者を考慮していない場合、彼らは不利益を受けてしまいます。例えば、結婚に関連する手当や制度が異性愛者のカップルのみに適用されるような場合、同性愛者やトランスジェンダーの従業員はそのサポートを受けられません。

また、企業が平等な福利厚生を提供することで、従業員は自分自身を偽らず、安心して仕事に取り組むことができます。このような環境は、従業員のモチベーションを高めるだけでなく、企業の生産性や業績にも良い影響を与えます。

さらに平等な福利厚生は、外部からの評価やイメージアップにもつながります。世界全体で多様性を尊重する風潮が高まる中、LGBTQに配慮した取り組みをする企業は、求職者や顧客、取引先からの信頼を得やすくなると考えられます。

まとめ

LGBTQとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダー、そして自身の性的指向や性同一性を模索中の人々であるクエスチョニングの5つの性的少数者の総称です。今回の記事では、持続可能な開発目標であるSDGsとLGBTQの関係性に焦点を当ててきました。

SDGsはすべての人が平等に暮らせる持続可能な社会を目指すもので、その人々の中にはLGBTQも含まれています。文部科学省や東京都などの公的機関、さらには三井住友銀行やパナソニックホールディングスといった企業も、LGBTQの人々を尊重し、より良い環境を目指して取り組みを進めています。

このような動向から、これからの企業にはLGBTQに関する教育や研修の実施や、LGBTQを含む、すべての従業員に平等な福利厚生を提供することが求められると考えられます。まずは自社にできることから、LGBTQの人々に対する配慮を始めていきましょう。

著者のプロフィール

直樹細田