多くの中小企業者や個人事業主が、事業継承や事業再編を検討しています。
事業継承・引継ぎ補助金を活用することで事業承継や事業再編、事業統合に伴う経費の一部に対して補助を受けることが可能です。
本記事では、事業承継補助金(事業継承・引継ぎ補助金)を活用するメリットや申請対象者、申請方法について詳しく解説します。
さらに、事業承継補助金の効果的な活用事例についても紹介します。
事業承継補助金(事業継承・引継ぎ補助金)の概要を理解し、事業承継などの判断に役立つ情報を得ることができるでしょう。
事業承継補助金を活用するメリット
事業継承補助金(事業継承・引継ぎ補助金)を活用すると経営革新やM&A、廃業などに伴う費用の補助を受けることが可能です。
費用負担が軽減され、事業継承に関する判断が容易になります。
以下では、事業継承補助金を活用する際のメリットについて説明します。
経営革新を支援する事業承継補助金
事業継承・引継ぎ補助金の「経営革新事業」を活用することで、新商品の開発費や販路拡大にかかる費用を軽減することが可能です。
新しい事業や商品開発に取り組む際のハードルが低くなり、投資資金の回収期間も短縮されます。
経営革新事業は、事業継承やM&Aで引き継いだ経営資源を活かし、経営革新にかかる費用を補助する制度です。
デジタル化やグリーン化、事業再構築に資する事業が対象であり、最大800万円の補助を受けることができます。
事業継承・引継ぎ補助金の経営革新事業では、以下のような取り組みが対象となります。
- 新規設備の導入
- 新たな販路開拓
- 新商品の開発または生産
- 新たな役務の開発または提供
- 技術に関する研究開発
- 新分野への進出
「参照」
事業承継・引継ぎ補助金【7次公募】の概要 p.6.12〜22
M&A専門家活用費用の補助
事業継承・引継ぎ補助金の「専門家活用事業」を活用することで、M&A専門家にかかる委託費用を軽減可能です。
費用の軽減によって後継者不在や経営力の強化を目指すM&Aに取り組みやすくなります。
この制度は、M&Aの買い手・売り手の両方を対象としており、補助の上限額は600万円です。
専門家活用事業は、M&A支援機関登録制度に登録された以下の支援機関への委託が補助の対象となります。
- M&A専門業者(仲介、ファイナンシャルアドバイザー)
- 金融機関( 都市銀行、地方銀行、保険会社など)
- 商工団体(商工会・商工会議所)
- 士業専門家(税理士、公認会計士、弁護士、中小企業診断士など)
また、補助対象となる主な費用は以下のとおりです。
- 着手金
- マーケティング費用
- リテーナー費用
- 基本合意時報酬
- 成功報酬
- 価値算定費用
- デューデリジェンス費用
「参照」
廃業・再チャレンジまで対応可能な補助制度
事業継承・引継ぎ補助金の「廃業・再チャレンジ事業」は、事業者が廃業または再チャレンジする際の費用を軽減できる制度です。
廃業や再チャレンジに伴う、廃業支援費・在庫廃棄費・解体費・リース解約費などが対象で、補助の上限額は150万円となります。
補助の対象は、以下のとおりです。
- 事業承継もしくはM&Aで事業を引き継いだ後の廃業
- M&Aで事業を引き継いだ際の廃業
- M&Aで事業を譲り渡した際の廃業
- M&Aで事業を譲り渡せなかった廃業・再チャレンジ
補助制度により費用が軽減されることで、廃業や再チャレンジに関する決断が容易になります。
「参照」
事業承継補助金の申請対象者と対象経費
事業継承補助金(事業継承・引継ぎ補助金)の申請対象者と対象経費について理解することは重要です。
以下では補助金の対象となる企業と経営者、そして補助対象となる経営支援経費の詳細について説明します。
補助金の対象となる企業と経営者
事業継承補助金(事業継承・引継ぎ補助金)の対象となる企業および経営者は、以下のとおりです。
- 事業継承により新たな取り組みを行う中小企業者や個人事業主
- 事業再編や事業統合に伴い経営資源を引継ぐ中小企業者や個人事業主
これらの中小事業者および個人事業主は、事業承継、事業再編、事業統合に関連する経費に対して補助金を受けることができます。
「参照」
補助対象となる経営支援経費の詳細
事業継承・引継ぎ補助金の対象となる経費は、対象事業を遂行するために必要で、対象期間内に契約・発注して支払った経費です。
補助対象となる経費の分類は、対象となる事業によって異なります。
対象事業 | 補助対象となる経費の分類 |
経営革新事業 | 【事業費】店舗等借入費産業財産権等関連経費マーケティング調査費設備費原材料費会場借料費謝金旅費広報費外注費委託費 【廃業費】廃業支援費在庫廃棄費解体費原状回復費リースの解約費移転・移設費※廃業・再チャレンジと併用申請した場合のみ対象 |
専門家活用事業 | 【事業費】委託費(※1)謝金旅費外注費システム利用料保険料 【廃業費】(※2)廃業支援費在庫廃棄費解体費原状回復費リースの解約費移転・移設費用 ※1 M&A登録専門家への支払いのみ対象※2 廃業・再チャレンジと併用申請した場合のみ対象 |
廃業・再チャレンジ事業 | 廃業支援費在庫廃棄費解体費原状回復費リースの解約費移転・移設費用 |
「参照」
事業承継・引継ぎ補助金【7次公募】の概要 p.18.36.50
事業承継補助金の申請方法と手続き
事業継承補助金(事業継承・引継ぎ補助金)の申請方法や手続きについて理解しておくと、手続きがスムーズに進む可能性が高まります。
同時に、留意事項を把握しておくことも重要です。
以下では、事業承継補助金の申請方法と手続き内容について説明します。
公募要領と申請書の準備
事業継承・引継ぎ補助金の申請手順は、以下のとおりです。
- gBizIDプライムアカウントの取得
- 公式サイトから公募要領をダウンロードして確認
- 認定支援機関や専門家へ相談
- 補助事業計画等の作成
- 認定経営革新等支援機関からの確認書発行
- 交付申請書類の作成および準備
- 申請フォームに必要事項を入力し、書類を添付
- 申請完了
事業継承・引継ぎ補助金の申請には、gBizIDプライムのアカウント取得が必要です。
アカウントの取得には2〜3週間程度かかるため、できるだけ早く取得手続きを行うことをおすすめします。
公募要領は、各事業(経営革新事業、専門家活用事業、廃業・再チャレンジ事業)ごとに用意されています。
また、交付規定や交付申請時の手引きに関する資料もありますので、必ず確認してください。
「参照」
申請受付期間と提出先
事業継承・引継ぎ補助金の申請受付期間は、公式サイトに掲載されています。
現在行われている第7次公募の申請スケジュールは、以下のとおりです。
申請受付開始 | 2023年9月15日 |
申請締切 | 2023年11月17日17時 |
交付決定 | 12月下旬予定 |
補助事業完了日 | 2024年6月30日 |
実績報告期日 | 2024年7月10日 |
確定検査 | 2024年7月上旬以降随時実施 |
補助金交付請求 | |
補助金交付 |
※2023年11月29日現在
申請は電子申請システム「jGrants」を使用して行います。
申請に関する問い合わせ先は、以下のとおりです。
問い合わせ先 | 事業承継・引継ぎ補助金 事務局(7次公募) |
電話番号 | 経営革新:050-3000-3550専門家活用/廃業・再チャレンジ:050-3000-3551 |
受付時間 | 10:00~12:00、13:00~17:00(土日祝日除く) |
事務局HP | https://jsh.go.jp/r5h/ |
「参照」
活用のポイントと留意事項
中小事業者などが経営革新、M&A、廃業などを検討している場合、補助金を利用することで負担を軽減できます。
返済不要な資金を調達し、費用負担が軽減されることで、資金面が判断に影響を及ぼす可能性が低減されます。
ただし、以下の点に留意してください。
- 対象事業によって条件や補助額が異なる
- 必ずしも交付されるわけではない
経営革新事業、専門家活用事業、廃業・再チャレンジ事業の各事業ごとで、対象となる費用や補助額などが異なります。
事前に条件等を十分に確認することが重要です。
また、申請したからといって必ずしも交付されるわけではありません。
6次公募の交付決定率は以下のとおりです。
申請数 | 交付決定数 | 交付決定率 | |
経営革新事業 | 357件 | 218件 | 61% |
専門家活用事業 | 468件 | 282件 | 60% |
廃業・再チャレンジ事業 | 37件 (単独申請1件含む) | 23件 | 62% |
※小数点以下は切り捨て
これらの留意事項も踏まえて、申請する必要があります。
「参照」
事業承継補助金の効果的な活用事例
事業継承補助金(事業継承・引継ぎ補助金)の公式サイトには、補助金を活用した実際の事例が掲載されています。
事例を知ることで、補助金を効果的に利用する方法について具体的なイメージを得ることができるでしょう。
以下では、事業継承補助金の事例に基づき、生産性向上に成功した事例や地域経済の活性化に貢献したケースを紹介します。
生産性向上に成功した事例
事業継承補助金(事業継承・引継ぎ補助金)が、生産性向上に成功した主な事例は、次のとおりです。
業態 | 経費の種類 | 取り組みと効果 |
トリミングサロン | 人件費店舗等借入費設備費 | ・ハズバンダリートレーニング(受診動作訓練)に関する従業員教育により全体のサービスレベルが向上・店舗賃借形態の変更による家賃負担軽減・ハズバンダリートレーニング実施のための改装 |
食品製造業 | 設備費 | ・冷蔵庫増築および冷蔵設備入れ替えにより、キャパシティが広がり生産性が向上・冷蔵能力が高まり、品質向上や節電にも貢献 |
魚肉練り製品製造業 | 設備費 | ・ちくわ焼き機の導入により、焼いているところを見せ、新規顧客を獲得・フライヤーの導入により、季節商品や限定商品を揚げ、スーパーとの差別化を図り新規顧客を獲得・出来立ての揚げ蒲鉾を盛り付けて見えやすい場所に置くことで、購入者が増加 |
地域経済の活性化に貢献した事例
事業継承補助金(事業継承・引継ぎ補助金)が、地域経済の活性化に貢献した主な事例は、次のとおりです。
業態 | 経費の種類 | 取り組みと効果 |
食品製造業 | 委託費 | 地域に根付いた和菓子・洋菓子店を展開しており、住民にも長く親しまれている商品が多数ある。事業譲渡によって、雇用と営業は継続が可能となり、今後も地域住民から親しまれているお店として貢献できる |
調剤薬局の運営業 | 委託費 | 設立以来地域に根差した薬局として運営。従業員の大半は近隣住民から採用。経営資源の引継ぎによって、今後も安定した営業が可能となり、地域住民の健康管理に一層貢献できる |
燃料小売業 | 委託費 | ガソリンスタンドを運営。取引相手は、地域の中小企業、農家、建設会社などで地域経済の循環には重要。経営資源の引継ぎにより、地域住民へのサービスを継続でき、今後も地元経済を支えることが可能 |
よくある質問
事業継承補助金(事業継承・引継ぎ補助金)に関して、よくある質問は以下の3点です。
2023年度の事業承継・引継ぎ補助金の上限額はいくらですか?
事業承継・引継ぎ補助金の上限額は、対象事業によって150万円から800万円まで設定されています。
各事業ごとの補助金の上限額は、以下のとおりです。
事業 | 補助金の上限額 |
経営革新事業 | 800万円 |
専門家活用事業 | 600万円 |
廃業・再チャレンジ事業 | 150万円 |
事業承継・引継ぎ補助金とは?
事業継承・引継ぎ補助金は、中小企業者や個人事業主が、事業承継・事業再編・事業統合に関する経費の一部を補助する制度です。
事業継承・引継ぎ補助金を活用することで、経営革新、M&A、廃業などに伴う費用が軽減されます。
経営革新事業 、専門家活用事業、廃業・再チャレンジ事業の3つの事業に対して助成が行われています。
事業承継補助金の難易度は?
事業継承・引継ぎ補助金の第6次公募における交付決定率は、経営革新事業が61%、専門家活用事業が60%、廃業・再チャレンジ事業が62%です。
申請したからといって必ずしも補助金が交付されるわけではないことに留意してください。
まとめ
事業継承補助金(事業継承・引継ぎ補助金)を活用すると、経営革新、M&A、廃業などに伴う費用の補助を受けることができます。
返済不要の補助金により費用負担が軽減され、事業継承に関する判断が容易になります。
公募のスケジュールは、公式サイトで随時公開されています。
この機会に、事業継承補助金(事業継承・引継ぎ補助金)の活用を検討してみてください。
事業承継補助金に関する重要用語
項目 | 説明 |
事業継承 | 経営者が企業の経営を後継者に引き継ぐことです。 |
事業再編 | 事業や企業の構造・編成を変更して、将来の経営に適した形に再構築する取り組みです。 |
事業統合 | 同じ種類の事業を有する2社以上の企業が、それらの事業を統合することです。 |
M&A支援機関登録制度 | 中小企業を対象にM&A支援業務を行う事業者の登録制度です。本制度は中小企業が円滑かつ安心してM&Aを検討できるように、中小企業庁によって創設されました。事業承継補助金の専門家活用事業では、本制度に登録された専門家への委託のみ補助対象になります。 参照:事業継承・引継ぎ補助金パンフレットM&A支援機関登録制度|中小企業庁 |
gBizIDプライムのアカウント | 法人代表者や個人事業主を対象とした共通認証システム(gBizIDプライム)のアカウントです。事業承継補助金をはじめとした補助金の申請などには、gBizIDプライムのアカウントが必要になります。アカウントの取得には、印鑑証明書と登録印鑑を押した書類を郵送する必要があり、2〜3週間程度で発行されます。 参照:gBizID|デジタル庁マンガでわかる「GビズID」|経済産業省 中小企業庁 |
著者のプロフィール
- タンソーマンプロジェクト発起人であり、タンソチェック開発を行うmedidas株式会社の代表。タンソーマンメディアでは、総編集長を務め、記事も執筆を行う。